暑さがやわらぎ、秋の訪れを感じる9月。お彼岸を迎えると、ご先祖様に手を合わせたいという気持ちが、自然と湧いてきます。ただ、お墓が遠方にあると、日ごろはなかなかまとまった時間がとれません。ゆっくりとお参りできる機会を、心待ちにしている方もいらっしゃるかと思います。
そのような折、今年はうれしい巡り合わせがあります。彼岸入りの9月20日と中日の9月23日(秋分の日)が、11年ぶりとなるシルバーウィークの5連休に、そのまま重なるのです。これだけまとまった休みは、そうそうありません。
そこでご提案です。この連休を、家族旅行とお墓参りを一つにした旅にあててみてはいかがでしょうか。お参りだけでも、観光だけでもなく、その両方を一度の旅で楽しむのです。親御さんにとっては、ご先祖様に会える喜びと、家族でゆっくり過ごす時間が重なる、またとない機会になります。

「旅行の行き先は、たいてい『どこに行きたいか』から考え始めますが、今年はお墓のある土地を起点に、周辺の観光地を探してみてはいかがでしょうか。
この探し方には、思いがけない楽しみがあります。「行きたい場所」から選ぶと、つい定番の観光地に落ち着きがちです。お墓のある土地を軸にすると、これまで候補にのぼらなかった温泉地や景勝地、その土地でしか味わえない食に出会えることがあります。ガイドブックを開く前に、まずは地図でお墓の周りを眺めてみてください。それだけで、旅の景色がぐっと広がります。
近い距離であっても、あえて一泊してみると、日帰りでは通り過ぎるだけだった土地が、ゆっくり味わえる旅先に変わります。
お墓が親御さんの故郷にある場合、この旅にはもうひとつの楽しみが加わります。その土地を一番よく知っているのは、ほかでもない親御さんだからです。
「昔、この道をよく通ったんだよ」「この店の味は変わらないね」。かつて暮らした土地を歩けば、親御さんの口から、思い出話が自然とあふれてきます。子や孫を案内するその姿は、いつもより少し誇らしげに見えるはずです。子どもが親を連れて行く旅ではなく、親に案内してもらう旅になります。この主役の入れ替わりこそが、親御さんを何より喜ばせてくれます。
旅の計画も、「どこに行きたい?」と尋ねるより、「昔よく通った場所はある?」「もう一度食べたいものはある?」などと聞いてみてください。親御さんの思い出の味や景色を目的地にすれば、それだけで、世界にひとつだけの旅程ができあがります。
初日は昼頃に現地へ入り、まずはお墓参りとお掃除から始めます。ご先祖様へのご挨拶を済ませたら、あとは地元の名物で夕食をとり、夜は宿でゆっくりと休みます。二日目は、朝をのんびりと過ごしてから、親御さんの思い出の場所や、近隣の観光スポットへ足を延ばします。
お参りを初日に済ませておくと、二日目は心置きなく旅を楽しむことができます。ご先祖様へのご挨拶を先に終えているという安心感が、そのあとの時間を、より晴れやかにしてくれます。
久しぶりのお墓参りを気持ちよく済ませるために、事前に確認しておくと安心なことがあります。まず、霊園や墓地へ連絡し、連休中の開園時間を確かめておきましょう。お花や手桶、柄杓が現地で借りられるかどうかも、あわせて聞いておくとよいでしょう。用意がない場合は、近くの花屋やお店の場所を調べておくと、当日あわてずに済みます。お掃除の道具として、軍手や雑巾、ゴミ袋を持っていくと便利です。
9月とはいえ、日中はまだ暑さが残ります。帽子や飲み物を用意し、こまめに休みながらお参りをしましょう。
連休は宿や交通機関が混み合うので、予約はできるだけ早めに済ませておくのが安心です。混雑を避けたい場合には、お参りの日を中日(23日)からずらし、連休の前半に充てるのもひとつの方法です。旅の行程は、親御さんの体力に合わせて、余裕をもって組んでおきましょう。

お子さんやお孫さんも一緒に加わることができれば、この旅は、さらに大きな意味を持ちます。お墓の前で手を合わせ、故郷の風景を眺めるひとときは、ご先祖様の記憶を次の世代へ手渡す、大切な時間になります。
普段の暮らしのなかでは、ご先祖様のことを語り合う機会は、なかなか訪れないものです。ですが、三世代がそろってお墓へ向かう道のりでは、親御さんの口から、昔の暮らしや家族の歴史が自然と語られることもあります。お子さんにとっては、それが「お墓の場所を知る」だけにとどまらず、自分がどこから続いてきたのかを知る、かけがえのない学びとなります。
そして、親や祖父母が手を合わせるうしろ姿は、子や孫の心に静かに残り、家族のつながりを、次の世代へとつないでいきます。
ご先祖様へのご挨拶と、親御さんとの旅の思い出を、一度の旅で同時に持ち帰ることができます。11年ぶりの長い連休がお彼岸と重なる今年は、その両方を叶えられる、またとない機会です。
慌ただしい日帰りでは味わえないゆっくりとした時間のなかで、親御さんが主役になれる故郷への旅を過ごすことができれば、その思い出はやがて、子や孫へと受け継がれていくでしょう。この秋は、家族旅行とお墓参りを一つにした旅へ、親御さんをお誘いしてみてはいかがでしょうか。
文/戸田敏治