5月の柔らかな陽射しに包まれた、川西中央霊園。兵庫県川西市の高台に広がるこの霊園の休憩所に入ると、小さな鳴き声が聞こえてきます。扉の先に広がっていたのは、テーブルの上にずらりと並んだケージと、その中から興味深そうに来場者を見つめる猫たちの姿でした。
この日開催されたのは「保護猫ちゃん譲渡会」。公益財団法人 日本アニマルトラストの動物保護施設で保護されている猫ちゃんたちの出張譲渡会で、会場には推定600名もの方が足を運んでくれました。

日本アニマルトラスト(大阪府豊能郡能勢町)は、1990年に「安楽死のない動物の保護施設」として設立された団体で、運営する保護施設「ハッピーハウス」では現在も約660頭の犬や猫などを保護しながら里親探しや募金活動に取り組んでいます。
会場に入ると、壁一面に里親を募集している猫たちのプロフィール写真が並んでいるのが目に入ります。一匹ずつにQRコードが添えられており、詳しい情報にアクセスできる仕組みです。この写真掲示は、実は譲渡会のために用意されたものではなく、普段から霊園内に常設されているもの。お参りに来た方がふと足を止め、「この子たちにはどこに行ったら会えるの?」と尋ねてくることもあるのだそうです。

この日の会場には、人懐っこい性格の子たちを中心に選ばれた猫たちが来ていました。ケージの前では来場者が静かにかがみ込み、格子越しにそっと手を差し伸べます。茶トラの猫がお腹を見せて来場者の指に頭をすり寄せていたり、白とグレーの猫が撫でられて気持ちよさそうに目を細めていたり。小さなお子さんが猫じゃらしのおもちゃでそっと遊びかける姿も見られました。

テーブルには一匹ずつのプロフィールカードもファイリングされていました。名前、推定誕生日、種類、性格、そして保護された理由。手に取ってじっくり読んでいる方も多く、ただ「かわいい」というだけではなく、その子がどんな背景を持っているのかにも自然と目が向くよう工夫されています。

会場の一角にはチャリティーコーナーも設けられていました。猫用のおもちゃやグッズが並ぶテーブルには、「売り上げは全て施設で暮らす動物たちのために使わせていただきます」という手書きのPOPが添えられています。猫を迎えること以外にも保護活動を支える方法があることを、さりげなく伝えていました。

霊園で猫の譲渡会。一見すると不思議な組み合わせに思えるかもしれませんが、そこには川西中央霊園とアニマルトラストとの長い関わりがありました。
両者の縁は20年近く前、霊園内にアニマルトラストの募金箱を設置したことに遡ります。大きな転機となったのは、ペットと家族がともに眠ることができる専用区画「ゆうあいの森」の開設でした。これを機に保護猫たちの写真を霊園内に常設で掲示するようになり、やがて来園者から「会いに行きたい」という声が寄せられるようになります。出会いの場そのものを霊園に作ることはできないか。そうした想いが積み重なり、今回の譲渡会として実を結びました。
川西中央霊園では、毎年ペットのための合同供養祭も行っています。すべての生き物を尊び、家族と同じように供養する。それが川西中央霊園の根底にある想いです。
一方、アニマルトラストは「生きとし生けるもの、命の重さはみな同じ」という理念のもと、今を生きる動物たちに新しい家族との出会いという希望を届けています。旅立った命をお預かりする霊園と、今を生きる命に希望を届ける保護施設。形こそ違いますが、すべての命に感謝し、愛を注ぐという想いは同じです。その共通する想いが、今回の譲渡会という形で実を結びました。

当日はアニマルトラストのサポート隊も駆けつけ、入口で来場者にチラシを手渡したり相談に応じたりと、運営を支えていました。開場前から来場者が集まり始めた様子を見て、霊園スタッフも「正直、こんなに来てくださるとは思っていなかった」と顔をほころばせていました。「今後は年に1回、できれば半年に1回は開催していきたい」。初めての譲渡会の手応えを感じている様子がうかがえました。
「霊園で譲渡会をやると聞いて驚きました」。そうおっしゃる方が少なくありませんでしたが、会場を訪れた方の表情は、猫たちと触れ合ううちにどなたも自然と和らいでいくようでした。
とりわけ心に残ったのは、あるご高齢の方のお話です。22年間ともに暮らした猫を4年前に看取り、それからずっと新しい子を迎えたいと考えていたそうです。ただ、年齢を理由に他の団体では断られることもあったとのこと。それでも長男の方が後見人を引き受けてくれることになり、3月から各地の譲渡会や施設を回り始めたといいます。大切な存在を見送ったあとに、もう一度迎えたいと思えること。その気持ちの強さに、胸を打たれました。
お子さん連れのご家族も多く訪れていました。あるお父さんは「将来的に猫を飼いたいと思っていて、子供が動物と触れ合える機会を探していたんです」と話してくださいました。ケージの前で夢中になっているお子さんの横で、嬉しそうに見守るその表情もまた、この日の温かな一場面でした。

当日は少なくとも2組がトライアル(お試し期間)に進む見込みとなりました。また、会場で行われた募金活動には44,000円の寄付が、チャリティーグッズの物販では20,000円の売り上げが寄せられ、すべてハッピーハウスで暮らす動物たちのために役立てられます。
実際にハッピーハウスから猫を迎えたあるご家族にもお話を伺うことができました。ご家族のもとにやって来たのは、マリちゃんという女の子。多頭飼育崩壊の現場から保護された子です。同じ日に生まれた兄弟たちは、残念ながら皆亡くなっていたといいます。そんな過酷な環境の中で生き延びたマリちゃんとの出会いに、ご家族はとても感謝しているそうです。

ハッピーハウス見学時の様子

トライアル初日の様子
奥様にはとことん甘え、ご主人のことは遊び相手と決めているようで、帰宅するとすぐにおもちゃを持ってくるのだそうです。そして、息子さんにはお兄ちゃんのように懐いているとのこと。

マリちゃんを迎えたことで、ご家族の意識にも変化があったといいます。アニマルトラストとの出会いをきっかけに、動物保護活動の実態について深く知るようになったそうです。虐待や飼育放棄、無責任な繁殖など、やむを得ない事情以外の理由で保護されてくる子たちが、想像していた以上に多いという現実。「ペットブームと言われますが、家族として動物を迎えるには重い責任と義務が伴うのだと痛感しました。安易な気持ちで動物を飼ってはいけないなと」。施設選びについても、本当に動物たちのことを考え、信念に基づいて活動している団体かどうか、しっかり調べることが大切だと感じたそうです。
「一匹をお迎えするということは、裏を返せばその他の子たちをお迎えしないということでもあります。全員を引き取ることはできないけれど、その子たちも皆幸せになってほしいという気持ちは、家族全員で共有しています」。一匹の動物を大切に育てるということは、すべての命に愛を向けるということなのかもしれない。マリちゃんとの暮らしの中で、ご家族はそう思うようになったそうです。
会場のすぐ外では移動動物園も開かれており、小さなお子さんが動物たちと触れ合う姿も見られました。小さな動物にそっと手を伸ばす子供たちの表情も、ケージ越しに猫を見つめる来場者の眼差しも、そしてお墓の前で静かに手を合わせる方の姿も、そのどれもが、大切な存在に想いを寄せるひとときであることに変わりはないのかもしれません。
「生きとし生けるもの、命の重さはみな同じ」。この日の川西中央霊園は、そのコンセプトそのもののような一日でした。
名称:猫ちゃん譲渡会 & チャリティーグッズ販売
開催日:2026年5月10日(日)
会場:川西中央霊園
参加費:無料(予約不要)
主催: 公益財団法人 日本アニマルトラスト、川西中央霊園
内容:保護猫との触れ合い・譲渡相談、チャリティーグッズ販売、募金活動

川西中央霊園 ゆうあいの森
次回イベント予告
◆「ゆうあいの森」合同供養祭開催
開催日時:11月14日(土)午前10時より
実施内容:寺院様による、ペットちゃんのための読経供養 / ヴァイオリニストによる生演奏
「ゆうあいの森」所有者様以外のご参列も大歓迎です。
亡くなったペットちゃんのお写真を3日前までにメールにて送付いただければ、ご供養いたします。
写真送付先:kawanishi-chuo@forever-kato.co.jp
◆ 同日開催:「保護猫・保護犬譲渡会」
次回はワンちゃんも来ます!
取材/文/写真 戸田敏治