みなさんは、普段どんな親孝行をしていますか? 自分の仕事や子育てに必死で、なかなか親孝行のことまで気が回らずに日々が過ぎていませんか。
一方で、親孝行をしようと思っても、つい自分でハードルを上げすぎてなかなか動けなくなってしまうという方もいらっしゃるかもしれません。
N子さんもそんな一人でした。あるきっかけから「10日間の親孝行チャレンジ」に挑戦してみることにしました。その様子をレポートいたします。
<プロフィール>
■チャレンジャーN子さん
ご両親は、首都圏から新幹線で1時間の地方都市にお住まいです。N子さんは、普段月に1~2度の電話をしたり、盆と暮れにご夫婦で帰省をしています。
N子さんが今回「10日間親孝行チャレンジをしてみよう」と思ったのには、きっかけがありました。それは今年の夏のこと。例年のように帰省をしようとしたところ「今年の夏は暑すぎてお迎えの準備ができないから帰省を控えてほしい」とお母様に言われたのでした。
確かに猛暑でしたから、お母様の言葉はそのまま受け取るのも不自然ではありませんでした。けれども、「猛暑を理由に帰省を断るなんて…」と不安がよぎったN子さん、今まで義務感がほんの少し勝っていたお盆の帰省でしたが、少し違った気持ちが湧いてきたのでした。
日々、仕事に明け暮れていましたが、ふと気づいてみれば自身は40代後半、両親は70代半ばとなっています。親孝行を真剣に考える時期なのかもしれないと思ったものの、何をしてよいのかもわかりません。
そこで、まずは10日間、1日の中で少しでも親のことを考えて過ごそうと決めたのでした。
今まで月に1~2回は電話していましたが、仕事の繁忙期のためしばらく時間が空いてしまっていました。今年の夏は帰省もしていません。まずは電話をしてみました。

「あら。久しぶりね。何かあったの?」とお母様にいわれて、とくに内容を考えてなかったN子さん、慌てて「夏も帰らなかったし、そろそろ帰省してみようかな?」と伝えると嬉しそうな様子です。具体的な日程を決められませんでしたが、元気そうな様子に安心をしつつ電話を切りました。
N子さんが飼っている猫の面白い姿の写真を添え、LINEをお母様に送りました。
お母様からの返事は、なんとスタンプ。コロナ前までは、LINEも使っておらず、スマートフォンでもなかったご両親です。LINEはつながっていたものの、あまりやりとりはできないと勝手に思い込んでいつもは電話をしていました。しかし生活時間が異なると、電話をできる時が限られてしまいます。次第に連絡が遠ざかっていたのですが、いつのまにかご両親もSNSに慣れてきていることを初めて知り、驚きます。
また、ご両親からは旅行先で撮影した写真が送られてきて、先月旅行に行ってきたことを知り、ご両親なりの充実した日々を垣間見ることができました。
毎年年末にかけて購入していたふるさと納税、今年は少し早めにお父様が好きなカニを発注することにしました。
ところが、N子さん、お父様の好きなカニの種類がどうしても思い出せません。「お父さんの好きなカニの種類はなんだったっけ?」と電話。
「いつまでたっても覚えてくれないな~毛ガニでしょうに…」とあきれながらもちょっとうれしそうなお母様の様子。電話の内容は些細なことでも、電話をくれただけでも親はうれしいものなのですね。改めて気づきのあったN子さんです。

▲ふるさと納税で届いた毛ガニ
「やっと涼しくなったね。来週末帰ってもいい?」という連絡を入れてみました。
「ええ、おいで。おいでー」と、うれしそうなお母様。
N子さんは夫と帰省するときは最近日帰りだったのと、準備が大変かと思いホテルに泊まるつもりでいたところ、「え、何で? 1人で来るならうちに泊まればいいじゃないの」という反応でした。1人での帰省は独身の頃に戻ったようで、自分も親も気軽だなと感じたN子さんです。またお正月やお盆という準備に大変な時期の帰省は、年を取ってきた親にとっても負担は軽くはないのだなと気が付かされました。
あわただしく来週末に帰省という日程が決まったので、妹弟も誘ってみることに。弟さんは予定が合いませんでしたが、実家から比較的近くに住んでいる妹のF子さんは来られることになりました。
N子さんは実家にはすぐに駆け付けられない距離に住んでいますが、近くに住むF子さんは頻繁に実家に行っていると思って、安心している部分がありました。が、F子さんも子供たちが大きくなり働き始めたため、以前ほど実家に行けていないということがわかりました。家族をめぐる状況は、日々変わっていきます。そんなことに気づくためにもコミュニケーションをとることは大切ですね。
朝から仕事が忙しい日。 10日間チャレンジの中盤ですが、何もせず終わりそう。そこで家族のLINEグループに仕事中に見た面白い風景の写真を送りました。他の姉弟が反応してくれたので、LINE上、しばし賑やかに盛り上がりました。ご両親の反応はないものの、「既読」スタンプを確認しながらN子さんはご両親の笑顔でやり取りを見ていたのではないかなと思い浮かべることができました。
帰省の日程の詳細を電話しました。LINEを使っているご両親ですが、どうしても返信は遅くなりがち。パッと返事が欲しい時にはやはり電話が便利ですし、声の調子で活字やスタンプではわからない雰囲気を知ることができるのも電話ならではですね。
F子さんともスケジュールを合わせられたことと、今回はお墓参りに行きたいということを伝えると、「それはいいね」ととてもうれしそうなお母様です。電話の向こうでは、お父様も耳をそばだてているようです。

仕事の後、お土産を購入して帰省しました。お母様は、もらったお菓子を知り合いなどにおすそ分けするのが好きなので、お土産も個包装で、限定品などを選ぶようにしています。金額的にも、ご両親があまり負担に感じない程度のものを選びました。
10ヶ月ぶりに実家に到着しました。家じゅうにはズラリと家族写真が飾られています。LINEやメールで送った写真からも取り込んでどんどん増えているようです。
たくさん自分の写真が飾られていることに恥ずかしい気持ちもしますが「アルバムに入れてしまうと見なくなるからこうやって飾っているのがいいの」と、お母様が言い、お父様もうなずきます。これほど想ってくれる親の愛情に、今更ながら気が付くN子さんでした。

▲N子さん曰く、夜見るのは怖い壁。
前日にふるさと納税のカニが届いていました。夕ご飯には解凍されているカニが用意されており、豪華な夕ご飯となりました。一緒に食事作りを手伝いうつもりだったのですが、「カニをさばけないでしょ」と戦力外通告をされてしまいました。

せめてもの手伝いをということで、食卓の準備と、皿ふきなどをしました。心なしかウキウキしているようなお母様と会話も弾みます。

▲この日の夕ご飯には毛ガニが登場。
その中で、お母様がドジャーズのファンになっていたことを初めて知るN子さん。ドジャーズの選手の名前なども憶えていて「いつの間に」とびっくりしました。ご夫婦でメジャーリーグの中継を見るのが朝のお楽しみのようです。
1人で墓参りをしてお墓の掃除をするつもりだったN子さんですが、交通が不便な場所にあるので、お父様が車を出してくれることになりました。何年振りになるかわからないほどでしたが、思いがけずお父様とN子さんの2人だけのドライブとなりました。
お母様がいるときとの会話とはまたちがい、仕事の話をしたり、お墓の状況なども聞いたりすることができ、予想外に貴重な時間となりました。

墓地では、同じ寺にある親戚のお墓の場所を改めて確認したり、仏教と神道の墓の違いや、お墓はN子さんから3代さかのぼるご先祖様が80年前に建てたことなど、お父様から詳しく聞くことができました。お盆の時と違ってお参りする人も少なく、お父様と手を合わせて拝む静かなひとときは、ご先祖様が身近に感じられる時間となりました。
F子さんが実家に到着し、女同士3人で百貨店に行くことになりました。コロナ禍で使わなかった百貨店の友の会が貯まっているとのことで、一人1万円という指定付きでお母様がおごってくれることになりました。本来親にプレゼントする年だけれども、今日は子供としておごられる日でいようとF子さんと話して、甘えることにしました。

「何を買う?」
「こんなのが似合うんじゃない?」
「Jさん(夫)にもちゃんとお土産を買ってあげてね」
と3人でおしゃべりしながらの買い物は、N子さん自身にとっても久々に独身時代に戻ったような楽しい時間となりました。お土産はいつも買う郷土の土産ではなく、百貨店の野菜コーナーの高級なトマトなど、意外なものを買ってみました。
また、実家にあるドリップコーヒーを何度か飲んだので、ちょっといいお店のものを買ってお礼代わりにお母様に何気なく渡すと「あ、買ってくれたの!」と気軽に受け取ってくれました。
家に帰ってのんびりお昼を食べながら、姉妹でお母様の話し相手をします。
お母様の趣味はクロスステッチや手芸、N子さん自身は苦手なので一緒に趣味を楽しむことは今までにありませんでした。けれども話を聞くことはできます。

最近の作品への思いや、シーズンごとに玄関に置くものを変えていることなどさまざまな裏話を聞くことができました。クロスステッチを一緒にやることはこれからもないと思うものの、次からは玄関をよく見て、何か一言感想を言うようにしようと思ったN子さんです。
ご両親と4人で写真を撮って、東京にいる弟さんにLINEで送り、帰路につきました。
前の日の帰りが遅くなったので、翌日電話でお礼を言いました。LINEで送った写真について弟さんからも感想が入り、家族LINEがしばし盛り上がりました。
10日間のチャレンジを終えてどうだったでしょうか。N子さんに聞いてみました。
「毎日些細なことでもコミュニケーションをとっているとそれが日常化して、気負いなく連絡ができるようになりました。LINEでは、返事が来るのが遅いのでもっぱら電話が多かったのですが、返事を急がないどうでもいいことはLINEにするなど工夫して、ちょっとしたコミュニケーションを大切にとっていきたいです。自分自身、忙しくてゆとりがなかったのかなと反省しています。
1泊2日の帰省でしたが、いつもより親孝行という視点で考えていたので、想像以上に多くの収穫がありました。いつもの週末にふらりと行くだけでも親孝行になることがわかったので、またチャレンジしたいと思います」とのことでした。
N子さんは、10日間継続してご両親のことを心に思う時間を作り、様々な気づきがあったようです。
毎日、ご両親を想うなにがしかの行動をすることで、連絡をするのがおっくうではなくなり、ほんの小さなコミュニケーションでも次第に大切な親孝行になると感じることができました。親子水入らずの時間も純粋に楽しめたようです。
ご両親も、旅行やプレゼントといった大げさなものではなく、何気ない連絡や、ふらりと訪れてくれることなどを喜んでくれたのではないでしょうか。
家を出てから長い時間が過ぎていると、ご両親の生活も趣味も、知らなかったことがたくさん増えていて驚きますね。しかしそれは、自ら知ろう、聞こうと思わないと気づかないまま過ぎていくものではないでしょうか。
猛暑で帰省が途絶えたことがきっかけとなった今回の親孝行チャレンジ。よいきっかけとなったようです。これからも折に触れ、続けられるといいですね。
小さな会話から始まる「親孝行チャレンジ」。みなさんもぜひチャレンジしてみてください。
(取材・文/宗像陽子)