夏の酷暑が嘘のように、あっという間に秋は過ぎゆき、冬将軍の足音が近づいてきました。
ご両親は、いつの間にか冷え性になっていませんか。
家のお風呂とは違い、温泉に浸かると身体の芯から温まり、ポカポカが長く続きます。
塩分を多く含む温泉では、ナトリウムが肌に付着して保温効果を高めるとも言われています。
この冬はご両親をあたたかい温泉旅館に招待し、ゆっくり家族団らんを楽しんで、心も身体も温まってもらいましょう。
ユニバーサルルーム、バリアフリールームを持つホテルのご紹介シリーズ、第三弾は九州編です。
杉乃井ホテル宙館TERRACE & DINING SORA
「バリアフリールーム」とは身体的な不自由がある人の利用を想定し、段差をなくし、広めのトイレなど、車椅子で利用しやすい設計となっている部屋です。
一方、「ユニバーサルルーム」は性別、年齢、国籍の違いや聴覚に不自由がある人など、誰もが使いやすいよう配慮されている部屋のことです。もちろん赤ちゃんなど小さな子どもも含まれます。
バリアフリー客室は、館内に1部屋というところも少なくありません。人気が高いので予約は早めの方がよいでしょう。
また、部屋だけではなく、館内の移動、浴場までの距離、手すりや段差の有無など事前に確認しておくこと、アレルギー対応や介護食などが必要な場合など、事前に細かく打ち合わせをしておくことも重要なポイントです。
一方で、「ユニバーサルルームは満室」と言われても、相談してみると他の客室でも十分配慮が行き届いている場合もあります。いずれにせよ、こちらの状態をよく相手に伝えて、ベストな滞在先を選ぶことが大切ですね。
バリアフリー施設についての記事はこちらでも書かれています。
[三世代OK]

杉乃井ホテルは1944年創業。別府温泉にあって、家族のお祝い事や地域の行事など様々な節目で地域の人々に愛されてきたホテルです。その杉乃井ホテルが2019年から大規模リニューアルに着手し、新たな魅力で注目を集めています。
「宙館」「星館」「虹館」と三つの棟がありますが、お年寄りとの旅にお勧めしたいのは、「宙館」(そらかん)です。大浴場やレストランも同じ棟内にあるため、移動の負担が少なく「宙館」だけで完結した滞在が可能です。
各部屋には自然をモチーフにしたテーマカラーが設定されており、ユニバーサルルームのテーマカラーは別府湾からインスピレーションを受けたという「青海」(あおうみ)。落ち着いた雰囲気のお部屋で、大きな窓からは別府湾を一望できます。

ベッドまわりのスペース、客室入口、バストイレ周辺も間口を広く取り、車椅子でもゆったりと移動できます。バスルームには手すりを設置。
三世代での宿泊もおすすめ。元気いっぱいの孫世代は宙館から棚湯&アクアガーデンまで送迎バスで行き来したり、ぶらぶら歩いて宙館へもどったりと自由に過ごせます。アクアガーデンで泳いだ後に棚湯で温まる。そんな楽しみ方もできますね。「一泊では回り切れない」といった声が多数聞かれるのも納得です。
孫の笑顔を見ることは、祖父母世代にとっては何よりの喜びですから、その意味でも親孝行になりますね。
海抜約250mから望む大パノラマの展望露天風呂も圧巻。塩分を含む温泉がお年寄り特有の筋肉のこわばりや痛みなどを優しく温めます。湯けむりと海の景色がひとつにつながる、ぜいたくな時間を過ごしましょう。

【宿名】杉乃井ホテル
【電話】0977-78-8888(予約センター9:00~19:00)
【HP】https://suginoi.orixhotelsandresorts.com/
【住所】874-0822 大分県別府市観海寺1
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン15:00~21:00 チェックアウト 11:00
【アクセス】
●博多駅→日豊本線→別府駅【約1時間50分(特急利用)】
●小倉駅→日豊本線→別府駅【約1時間10分(特急利用)】
※別府駅よりタクシー・無料シャトルバスで約10分
※レンタカー付宿泊プランあり。
<施設>
宙館のユニバーサルルームは4室。
広さ:46.85㎡ 人数:2~3名
ベッドサイズ:1108×1968×2台、1020×1880×1台
設備:バスルーム(手すり付)、温水洗浄トイレ(手すり付)、USB電源、コンセント
備品:液晶テレビ、冷蔵庫、セキュリティボックス、加湿機能付空気清浄機、電気ケトル、ドライヤー
<食事>
宙館宿泊者専用レストランTERRACE & DINING SORAのほか、杉乃井パレスにある「シーダパレス」でも食事可。
洋食を中心に和洋中のシェフこだわりのメニューや、年4回季節によってメニューを変えた料理を堪能できる。
手押しカートが用意されており、トレイを乗せて料理をとることができる。
介護食、アレルギー食の持ち込みは可能。事前連絡要。チェックイン時に、「食品等のお持ち込みに関する承諾書」に記入要。

<風呂>
宙館最上階に展望露天風呂あり。
泉質:塩化物・硫酸塩温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)、
筋肉・関節の慢性的な痛み、こわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、 運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、 軽い喘息または肺気腫、痔の痛み、自律神経不安症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進、他などに効果が期待される。
加水・加温・循環ろ過式(衛生管理のため塩素系薬剤を使用)

室内バスルーム
<レンタル>
シャワーチェア。杖。車椅子。※数に限りがあるため要予約
※その他の貸し出し品については事前確認を。
<最寄りの総合病院>
新別府病院まで車で約10分
[三世代OK]

古くからある観光地・指宿。その指宿の中でも世界で唯一の「砂むし温泉 砂楽」のお隣にあるのが「吟松」です。
「吟松」のモットーは「にっこり一番」。心地よく滞在できるようきめ細やかな気配りと笑顔がお客様の心と体をゆるゆるとほぐしてくれます。
たとえば朝は女将の「鹿児島弁講座」や紙芝居、夜はランタンを持ってのお散歩や様々なレクリエーションが参加自由で企画されており、適度な距離感のあるおもてなしの心が、多くのリピーターを生んでいます。
「鹿児島弁講座」は女将の「鹿児島の歴史や文化に少しでも関心を持ってほしい」との想いから始められたとのことです。

女将の「鹿児島県弁講座」も好評
9階の天空野天風呂や雲上貸切露天風呂は、錦江湾が一望でき、どこまでが海でどこからが空かわからないほどの絶景。
ただし、9階に行くまでの階段が少し急なので、足腰の弱い方には少し大変かもしれません。足腰の状態によっては露天風呂付客室がおすすめです。ベランダの湯船から錦江湾を眺めながらゆっくりと湯浴みが楽しめます。
「夫婦露天風呂の宿」と謳っていますが、高齢のお母様と娘さんの二人旅での利用も多いよう。露天風呂付の客室でゆったりと周りを気にせずお風呂に入り、背中を流してあげる――そんな時間も素敵な親孝行のかたちですね。
バリアフリーの部屋は1室のみですので、予約は早めが良さそうです。ツインベッドのうち1台が介護用。低床(45㎝)・柵付きなので、車椅子からスムーズに移動ができます。7人まで泊まれるゆったりした客室なので、3世代の宿泊にもぴったり。
宿泊者からは「畳の部屋で子どもたちがにぎやかにしても安心して見守ることができて、楽しく過ごせた」といった声も寄せられています。広々とした部屋の向こうの畳の部屋では子どもたちが楽しそうにはしゃいでいる。それをベッドに寝ながら眺めることができる部屋というのは、一つの幸せな家族の形ともいえそうです。

食事は部屋食ではありませんが、個室風の食事処で周りを気にせず楽しめます。
また珍しいのは、「温泉卓」。テーブルの中央から湧き出る源泉で、竹酒を温めたり、温泉卵を作ったり。温泉の香りを楽しみつつあたたかな体験ができます。
すぐ隣にあるという砂むし温泉もぜひ行ってみたいものです。地熱で温められた砂に体を埋めて入れば、砂の重みの圧力で心臓から送り出される血液量が増え、全身の血行を促進します。80度前後の温泉で55℃前後に温められた砂は発汗を促し、神経痛、リウマチ、腰痛、五十肩などの辛い痛みを心地よいぬくもりでやさしく包んでくれることでしょう。「気持ちがいいね」の一言が添えられたご両親の笑顔をぜひ見てみたいですね。
露天風呂付き客室、砂むし温泉がすぐ隣という立地、そして温泉卓での食事ー。
どれも「思い出に残る特別な旅」を演出してくれそうです。
「お祝い・記念・家族旅」に向いている旅館といえるでしょう。
【宿名】夫婦露天風呂の宿 指宿温泉 吟松
【電話】0993-22-2217(ふじリゾート予約センター)
【HP】https://ginsyou.com/
【住所】891-0406鹿児島県指宿市湯の浜5丁目26-27
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン15:00 チェックアウト 10:30
【アクセス】JR指宿駅よりタクシー約4分、徒歩30分。カーナビ設定番号は0993-22-3231(吟松)
<施設>
バリアフリー和洋室は1室。
広さ:和室12.5畳+洋の間
人数:7名
ベッドサイズ: 95×195
設備:冷暖房・液晶テレビ・洗浄機付きトイレ・無料Wi-fi・加湿機能付空気清浄機・ドライヤー・金庫・冷蔵庫・ケトル
バスルーム、温水洗浄トイレ(手すり付)
<食事>
個室風食事処で温泉の湧き出る卓で温泉卵、目の前で揚げるさつま揚げなど楽しめる。そのほか季節の地元食材を使った会席料理を提供。
介護食、アレルギー食などの持ち込みや変更は事前に要相談

温泉卓
<風呂>
天空野天風呂、雲上貸切露天風呂、2階大浴場の他露天風呂付客室。
バリアフリー和洋室には内湯が2つあり(源泉かけ流し湯と沸かし湯)手すりあり。
泉質:ナトリウム・塩化物泉

<レンタル>
シャワーチェア。杖。車椅子。数は限られるのであらかじめ予約を。
※その他の貸し出し品については事前確認を。
<最寄りの総合病院>
指宿医療センターまで車で約5分
[三世代OK]

庭の緑を愛でて、ゆったりと落ち着ける「葵」
佐賀県の嬉野温泉といえば、「日本三大美肌の湯」のひとつ。嬉野温泉が美肌の湯と言われる根拠はナトリウムを多く含む重曹泉であること。角質化した皮膚を乳化してなめらかになる効果が期待されます。
「美肌の湯」は、いつまでも若々しくありたいと願うお母様にとって、何よりもうれしいチョイスとなるのではないでしょうか。
さらに嬉野温泉はお茶の名産地としても知られています。「和楽園」は、茶どころ嬉野のお茶を、“飲む”だけにとどまらず「茶粥」などの料理を味わったり、お茶風呂やお茶パックを楽しんだりと、お茶の魅力を堪能できるユニークな宿です。
玄関ロビーでは、亀がお出迎え。長寿の象徴である亀の姿になんとも癒されます。館内全体にスロープや手すりが配置され、車椅子でも過ごしやすくなっています。47室の中でも特にお薦めな部屋はユニバーサルデザインルームの「蔦(つた)」と「葵(あおい)」の2室です。
入口から客室まで車椅子で移動ができますし、食事処やお土産処などにも距離が近いことは、お年寄りはもちろんのこと、付き添う家族にとってもありがたいですね。
敷地には四季折々の草木が植えられ、手入れの行き届いた庭を眺めながらゆったりとくつろげますし、室内はやわらかな照明が目に優しく、落ち着いた雰囲気。部屋風呂というよりは、貸切風呂的な感覚で利用できる専用露天風呂を備えており、とても過ごしやすい空間です。「両親を連れて行ってとても喜ばれた」といった口コミが多いのもうなずけます。

和室・和モダン・和洋室と部屋のバリエーションも豊富なので、三世代・四世代での滞在にもお薦めできる宿です。
1月には正月飾り、2月になればお雛様が飾られ、季節ごとに違う演出もおもてなしの気持ちの表れ。嬉野温泉全体で1月に行われる「うれしのあったか祭り」などの行事も、徒歩圏内。お散歩がてら楽しんでみてはいかがでしょうか。
【宿名】茶心の宿 和楽園 (佐賀県嬉野温泉)
【電話】0954-43-3181
【HP】https://www.warakuen.co.jp/
【住所】843-0302 佐賀県嬉野市嬉野町大字下野甲33
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン 15:00 チェックアウト 10:00
【アクセス】【車】九州自動車道嬉野ICより約5分
【電車】JR嬉野温泉駅より車で約5分 無料送迎あり
<施設>
全47室のうち、バリアフリー対応の和洋室は山茶亭の「蔦」と「葵」の2室。入口から客室まで段差はなく、車椅子のまま利用でき、ダイニングテーブルあり。「蔦」は内風呂と露天風呂がそれぞれあり、源泉かけ流しの湯を楽しめる。「葵」は屋内洗い場と源泉かけ流しの露天風呂がある。
広さ:「蔦」和洋室34㎡ 「葵」和洋室20㎡
ベッド: 蔦の間セミダブルサイズ2台 葵の間シングルサイズ2台 介護用ベッドの用意はなし

<食事>
旬の素材を盛り込んだ季節会席料理は玄界灘・有明海でとれた新鮮な魚介類を使った料理が並ぶ。嬉野特産のお茶を利用した「茶粥」や嬉野温泉名物「温泉湯どうふ」などが供される。
アレルギーは特定原材料(8品目)の対応可。
下記アレルギーを持つ方は予約時に要連絡。
【特定原材料 卵、乳(牛乳)、小麦、えび、かに、くるみ、落花生(ピーナッツ)、そば】
ベジタリアンやその他アレルギー、食材の好き嫌い・苦手食材等への対応は出来ない場合あり。
介護食については、持ち込みも可。ただし一般の食事を含んだ料金と同額。
<風呂>
露天茶風呂『緑泉』は温泉脇にある大きな石の急須からお茶のエキスがたっぷりのお湯がお風呂に注がれている。

お茶のエキスが大きな急須から注がれるお茶風呂
「蔦」は石風呂、さわらの木風呂。「葵」は石風呂。
泉質:ナトリウム炭酸水素塩塩化物泉
一部手すりあり。
<レンタル>
車椅子、杖、その他のものに関しては嬉野バリアフリーセンターより貸出品を借受し対応可。嬉野バリアフリーセンターに要問合わせ。
<最寄りの総合病院>
国立病院機構 嬉野医療センター(車で4分)
嬉野温泉病院(車で4分)
親子でのんびりと、それとも三世代四世代でにぎやかに。
あなたはこの冬どんな旅を計画しますか。
バリアフリーが整った宿であれば、足腰が弱ってあきらめていた方も旅の選択肢が大いに広がります。
子どもたちがアクティブに観光をしている間、居心地のよい宿でのんびり過ごすのも素敵です。
雄大な景色、近場のお散歩、地域の人とのふれあい、温泉のぬくもり、地元の食材をふんだんに使ったおいしい料理、普段できないような珍しい体験、そしてたくさんの笑顔。
日常生活と少し違う時間は、お父様やお母様にとって新鮮な刺激となり、活力を呼び起こしてくれるはず。
それは親孝行のひとつであると同時に、あなた自身にとっても、かけがえのない幸せなひとときとなるはずです。
取材・文/宗像陽子