冬本番。凍えるような寒さになると、どうしても家の中に閉じこもりがちになりますね。特に高齢者は、外に出るのがおっくうになると背中は丸くなり、筋肉も衰えてますます外に出なくなり、運動不足になるという悪循環に陥ってしまいます。
「温泉にでも行かない?」と声をかけてみませんか。効能のある温泉につかることは、血行をよくし、身体のためによいだけではなく、心をリラックスさせてくれます。美味を味わい、ゆったりとした時間をすごし、日常を忘れたひとときを過ごしてみれば、あなた自身もいつの間にかたまっていた心身の疲れに気づくことができるかもしれません。
前回の「関東・甲信越編」に引き続き今回は関西編です。大人向けの宿を2つ、三世代におすすめの宿を2つ選んでみました。
バリアフリーとは高齢者・障がい者などさまざまな人が社会生活を営む上で障壁(バリア)となるものを取り除くことを意味しています。車椅子がないと移動できない人にとって、床に段差がないのは必須となりますし、目が不自由な人にとっては情報が点字であればありがたいですね。しかし障がいの程度は千差万別で、施設がそれをすべてカバーできるわけではありません。
▲トイレが広く手すりがあれば車椅子でも入ることができる サン浦島悠季の里提供
バリアフリーに対応する施設は昨今増えてきましたが、あらかじめこちらの情報をしっかりと伝えて、施設で対応可能なことや自分たちで対応するべきことなどを先方とのやり取りを通して把握しておきましょう。
ホテルを選ぶポイントや旅を楽しむコツはこちらにも詳しく記載しました。
▶︎バリアフリーホテル3選 ~選び方・楽しみ方~関東・甲信越編 | 今できる親孝行 | 孝行好日
[三世代OK]
日本の文化と歴史の源と言ってもいい伊勢神宮や伊勢志摩国立公園。年を取るにつれ、一度は行ってみたいと感じる場所ではないでしょうか。
伊勢志摩国立公園・鳥羽に位置する「サン浦島 悠季の里」は、全てのお部屋が雄大な伊勢湾に面しており、刻一刻と変わる大自然の情景を楽しみながら料理、温泉を堪能できる純和風の宿です。
▲客室から見渡せる伊勢湾が絶景
「定年退職のお祝いに」「結婚の前に家族で」といった理由で選んでいる方も多く、「サウナや露天風呂付のお部屋で、食事も部屋の中のダイニングスペースで食べられました。おかげでゆっくりといろいろな話ができ、思い出深い時間を過ごせました」「静かに大切な人と過ごせる宿です」といった声が聞かれます。
▲客室露天風呂から伊勢湾を望む
旅館の御馳走は多すぎて食べきれないことも往々にしてありますが、「悠季の里」には少しずつ多種類の御馳走が食べられる「味彩プラン」があり、小食のお年寄りに好評とのこと。
国土交通省の「心のバリアフリー施設」※に認定されており、スタッフも様々な要望にも気持ちよく対応してくれます。車椅子対応トイレ付客室は2部屋ですが、そのほかの客室も多くがベッドで手すりがついている部屋も多いので、スタッフと相談しつつお部屋を選んでみてはいかがでしょうか。
蛍ツアーやお餅つきなど、季節ごとのイベントもあるので違う季節には三世代そろってまた訪れたくなりますね。
※「観光施設における心のバリアフリー認定制度」バリアフリー対応や情報発信に積極的に取り組む姿勢のある観光施設を対象とし国土交通省が創設、一定の条件を満たした施設が認定される。
【宿名】悠季の里
【電話】0599-32-6111
【HP】鳥羽の温泉旅館|伊勢志摩の観光に サン浦島・悠季の里【公式HP】
【住所】517-0025 三重県鳥羽市本浦温泉
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン15:00~21:00 チェックアウト 11:00
【アクセス】近鉄鳥羽駅より送迎バス20分 15:00 16:00 17:00 要予約
【泉質】アルカリ性単純泉
<施設>
9階「花柚(はなゆう)のうたい」64㎡
12畳和室(2ベッド+1デイベッド)+ダイニングルーム+温泉露天風呂、トイレ
冷蔵庫、冷暖房、テレビ、バス、シャワーブース、洗浄機付トイレ、電気ケトル、金庫、加湿機能付空気清浄機、DVDプレイヤー、無線LAN、コーヒーマシン
▲個室ダイニングでゆっくり食事を楽しめる
<食事>
海の幸・山の幸が豊富な伊勢志摩の素材を吟味。前菜、お造り、焼き物、蒸し物など会席料理。料理をすりつぶす、刻むなどの対応可。アレルギー食材などできる限りの対応をしてくれるが事前に要相談。プランや客室によっては部屋食あり。
<風呂>
「珠光の湯」(Ph9.5)と「新・珠光の湯」(Ph9.8)。どちらもアルカリ性の単純泉。それぞれ異なる2本の源泉を様々な湯船で楽しめる。大浴場は翌日10時まで入浴可能。風呂付部屋、プライベートサウナ室のある客室あり。
貸切風呂は3種類。カラオケルーム付き、室内家族風呂、森林浴が楽しめる館外風呂。(別途有料)
<レンタル>
シャワーチェア。杖。その他要相談。
<最寄りの総合病院>
伊勢市立総合病院、伊勢赤十字病院
[大人向け]
日本最古の温泉、有馬温泉の中心に位置する「ホテル花小宿」。有馬温泉の「陶泉 御所坊」のオーナーでもある金井さんがホテル花小宿をオープンしたきっかけは、今から30年前に阪神淡路大震災に遭遇したことでした。日頃地球の恵み「温泉」を甘受して営みを行っている者として、阪神淡路大震災は改めて地球の力を見せつけられた思いだったとのこと。そこで地球に何が出来るかを考えた上で、震災により廃業した木造2階建ての小さな宿を借り受けて、人と地球にやさしい宿として、ホテル花小宿を2000年に開館しました。
▲古民家のようなたたずまい
こぢんまりとしたレトロ感のある宿は、同行の方と温泉旅館を楽しめる事をコンセプトにしており、小さな宿ならではのこまやかなバリアフリーの工夫があります。
駐車場は少し遠くにありますが、連絡をすればすぐに車椅子対応の車両で迎えに来てくれます。
12歳未満は宿泊できない大人のための落ち着きのある宿です。チェックアウトが12時なので、ゆっくりと温泉を満喫できることもうれしいですね。
▲畳にベッドという設えは当宿から多くの日本の温泉旅館に広まった。
【宿名】ホテル花小宿
【電話】078-904-0281
【HP】http://hanakoyado.com/
【住所】〒651-1401 兵庫県神戸市北区有馬町1007
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン15:00 ~ 19:00/チェックアウト12:00
【アクセス】有馬温泉駅より徒歩8分。駅より車椅子対応車で送迎あり。
【泉質】含鉄-ナトリウム-塩化物温泉(高張性・中性・高温泉) 源泉かけ流しの金泉を湧き立てそのままの源泉を味わえる。金泉の蒸気を使った蒸し風呂もあり。
<施設>
玄関のたたきから館内へは、昇降リフトあり。
・和風ツインB 20㎡ シングルベッド2台リクライニング機能、高さ変更機能あり。
サイズはゆったり。室内の手すり、車椅子でも使用しやすい水回りなど使いやすく配置。車椅子で移動しやすいよう半分はフローリング。部屋に風呂はないが、部屋の目の前に貸切風呂「蔦葉子」あり。
<食事>
自家栽培の米や野菜、最高級の和牛など素材の良さを生かした料理。また神戸では唯一旅館として明石浦漁港への出入りが許され、毎日質の良い魚類をせり落として調理している。おくどさんを備えたカウンター式割烹。
介護食、アレルギー食は持ち込み不可、アレルギー対応や刻み食は対応可。ビーガン、ハラル対応可。
<風呂>
バリアフリーに対応している貸切風呂「蔦葉子」は和風ツインBの目の前にある。有馬の温泉熱を利用した車椅子でも入浴できる蒸し風呂あり。
スロープ、手すり、浴場用車椅子など完備。(追加料金なし)
▲貸切風呂蔦葉子
<レンタル>
館内用車椅子、浴場用車椅子あり。その他要相談。
<最寄りの総合病院>
済生会兵庫県病院
[大人向け]
喧騒の大阪市内から車で40分とは思えないほど、自然豊かな場所にある滝の湯。1日6組限定なのでスタッフの気配りも行き届き、満足度が高いのが特徴です。
バリアフリー客室は車椅子のまま入室できますし、バリアフリー客室でなくても客室内にはすべてマッサージチェアが無料で使えるなどうれしいサービスがあります。
「年に一度の両親を伴った旅行はここ」と決めている方や「高齢の母とはあちこち行かず、部屋の露天風呂に何度もはいるだけで特に何もしない」といったリピーターが多いのもうなずけます。部屋は広々としており、各部屋についている専用客室露天風呂で近木川のせせらぎの音を聞きながらの入浴は至福の時間です。大浴場までの移動や寒暖差なども考えず、ひたすらのんびりと露天風呂を楽しめるのは高齢者にとってうれしいことですね。もちろん大浴場でゆったりと羽を伸ばすのもおすすめです。
▲専用客室露天風呂は総ヒバ作り
12歳未満は宿泊ができませんが、お母様との二人旅などに行かれてみてはいかがでしょう。ゆったりと過ごす時間の中で、普段は言えない本音や不安がポロリと聞かれるかもしれません。日常を忘れてのんびりするには最適の宿と言えましょう。
料理はこだわりの懐石料理で、地元泉州産の新鮮な野菜や魚介類などを厳選して調理。器や盛り付けなど美しく配慮されています。
▲旬の食材をふんだんに生かした料理
【宿名】松葉温泉滝の湯
【電話】0120-041-551
【HP】松葉温泉 滝の湯【公式】 | 宿泊・日帰り温泉 大阪 貝塚市 ラドン温泉
【住所】597-0102 大阪府貝塚市木積3488 番地
【チェックイン/チェックアウト】チェックイン 15:00~18:00/チェックアウト 11:00
【アクセス】水間観音駅よりタクシー約10分
【泉質】ラドン含有温泉
<風呂>
半露天風呂、大浴場のほか、客室専用露天風呂あり。
<施設>
バリアフリー客室
▲バリアフリー客室 椿の間
バリアフリー対応客室は椿の間・あじさいの間58㎡
個室に総ヒバ作りの露天風呂あり。
60インチ液晶テレビ、ダブルベッド1台、シングルベッド1台、マッサージ機(無料)、加湿・空気清浄機、Bluetooth対応オーディオ、小型冷蔵庫、簡易金庫、電気ケトル
バリアフリー対応で、車いすで部屋入室可。
客室マッサージ機はすべての部屋にあり無料。
<レンタル>
館内用車椅子、介助椅子、ベッドガードなど。その他要相談。
<食事>
宿泊者専用個室で食事ができる。介護食、アレルギー食などの持ち込みや変更は可能だが、相談の内容によっては有料。
<最寄りの総合病院>
河崎総合病院
[三世代OK]
800年もの歴史を誇る宝塚温泉にある「ホテル若水」は、宝塚劇場から武庫川を隔てて徒歩15分。親子でヅカファンであればぜひ1度は泊まりたい宿です。
一歩ホテルに入れば、広い吹き抜けのロビーの目の前に大きな窓があり、開放感たっぷりです。
▲ロビーラウンジ
ロビーや客室で聞くことができる水琴の音色にリラックスし、2階ラウンジで武庫川の流れや宝塚大劇場の眺めを堪能。宝塚観劇後にホテルにチェックインし、大劇場の絶景を眺めながら舞台の余韻を楽しみ、さらに部屋で宝塚歌劇衛星放送チャンネルの視聴をするという宝塚三昧が楽しめます。
もちろんこの宿で楽しめるのは宝塚ファンばかりではありません。プランや部屋が多彩で子連れのためのサービスが多いのも「高齢者にも小さな子連れにも楽しんでほしい」というコンセプトの証。チェックアウトが遅いマタニティプランなどもあります。
近辺には宝塚劇場以外にも「手塚治虫記念館」「カップヌードルミュージアム」「ダリヤ園」「アンパンマンミュージアム」「廃線ウォーク」など見どころはたくさんありますから、ママとおばあちゃまは宝塚観劇。子どもたちとおじいちゃま、パパは別行動も可能ですね。
「USJ」から最も近い温泉旅館とも言われています。
▲手塚治虫ミュージアム
一日思い思いに楽しんで宿に戻ったら美味しいお料理に舌鼓を打ちながら、お互いに楽しかったことをおしゃべりしてはいかがでしょうか。お宮参り、お食い初め、誕生日、還暦などのプランも豊富でまさに三世代で行くには最適な宿です。
土曜と月曜は女性露天風呂がバラ風呂。温泉が少々苦手なお年寄りでも思わず入りたくなる優雅で香りのよいお風呂です。
▲香りのよいバラ風呂
【宿名】ホテル若水
【電話】0797-86-0151(9:00~19:00)
【HP】https://www.h-wakamizu.com/
【住所】〒665-0003 兵庫県宝塚市湯本町9-25
【チェックイン・チェックアウト】チェックイン15:00~20:00/チェックアウト10:00(プランによってはアーリーチェックイン、レイトチェックアウトあり)
【アクセス】宝塚駅より徒歩5分
【泉質】ナトリウム-塩化物冷鉱泉(高張性、中性、冷鉱泉)
<施設>
[ジュニアスイート梓弓]57㎡ 川側 (展望ダイニング付き、ツインベッド、シャワールーム)
▲客室梓弓
[スーペリアツイン]54㎡ 川側(和室12.5畳+広縁、内風呂)
[和洋室]64㎡ 川側(和室12.5畳+広縁、洋室ツインルーム、内風呂)
[ツインルーム]24㎡ 山側(洋室ツインルーム)車椅子可
※和室での車椅子利用については、応相談(専用マットを敷いて利用可能)
※室内トイレはすべて洗浄機付き
<食事>
お子様料理あり、事前の予約がおすすめ。介護食、アレルギー食などの持ち込みや変更(料理をすりつぶす、刻むなど含め)は事前の相談により可能な限り対応
<風呂>
毎週月・土曜は女性露天風呂でバラ風呂。貸切家族風呂あり(1回45分2000円)大浴場、露天風呂、貸切風呂すべてに手すりあり。
<レンタル>
館内用車椅子、お風呂用介助椅子、加湿器、空気清浄機、その他要相談。
<最寄りの総合病院>
①宝塚市民病院 ②宝塚第一病院 ③宝塚病院
■まとめ
普段は離れて暮らしている親子でも、旅に出て1日でも2日でも一緒にいると一気に距離が縮まります。
温泉に行ったら、ぜひあなたが女性ならお母様と、男性ならお父様と湯舟につかり、背中を流してあげてください。「ああ。とても気持ちがいいよ」と喜んでくれることでしょう。そしてあなたはお父様やお母様の背中を流しながら「あれ、ずいぶん背骨がゴツゴツして痩せてしまったな」とか「大きいと思っていた親父の背中がこんなに小さかったっけ?」と感じるかもしれません。楽しい時間を過ごせる一方で、親の老いを目の当たりにして少しショックだったり、スムーズにいかないことにイライラすることもあるでしょう。けれども、それがきっかけとなり、もう少し親に寄り添ってあげよう、頻繁に家に帰ってあげよう、話を聞いてあげようとなれば「あの時に行ってよかった」と後で思えるはずです。
寒い冬の日が続きますが、親子で居心地の良い旅館に宿泊し、温泉で温まってゆっくり過ごし、今できる親孝行をぜひ実践してみてはいかがでしょうか。
取材・文 宗像陽子