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今できる親孝行2025.07.07書店員に聞く親子関係を見つめ直すきっかけになる漫画5冊

親子の関係に悩むのは、決して珍しいことではありません。近すぎるからこそ分からない、血がつながっているからこそ難しい瞬間があります。そんな親子関係を、漫画を通じて考えてみませんか。漫画なら絵と言葉で感情が表現されるため、複雑な親子の気持ちも分かりやすく、重いテーマでも手に取りやすいのが魅力です。 今回は「親子関係を見つめ直すきっかけになる漫画」をテーマに、三省堂書店池袋本店副本店長の杉山さんにお薦めの漫画を5冊選んでいただきました。母と娘の複雑な関係を描いた作品から、介護をテーマにした温かい物語まで、それぞれ異なる親子の形を描いた作品が揃いました。杉山さんのコメントとともに紹介いたします。

1冊目:『おかあさんとごいっしょ』逢坂みえこ(講談社)

それぞれ3組の母と娘の姿を描いたコミック。3組ともそれぞれの理由で母親との距離感に苦慮している姿が描かれています。母親は娘のことを思い、娘も母親のことを思っている…それでも、時には重く感じてしまう時もある。近すぎる存在だからこそ、胸のうちを周りの人に吐き出すのも難しい。そんな心のモヤモヤを代わりに描いてくれている作品かもしれません。

2冊目:『それでも親子でいなきゃいけないの?』田房永子(秋田書店)

様々な親子をインタビューでまとめた第1章、母と絶縁した著者が、母との関係性について見つめなおし、再会する姿を描いた第2章、そして、母と娘の影にいる父親の存在について記した第3章の3部構成になっているコミックエッセイ。

著者のように実際に縁を断つ決断をするほどの家庭環境の方は多くはないと思いますが、距離をおくと親不孝になってしまうのではと思い苦しんでいる方もいらっしゃるかもしれません。著者自身、距離を置いたことで自立した自分の人生を歩き、また親と再会できています。親との距離感で苦しんでいる方にとって親子関係の考え方が変わる作品になるかもしれません。

(『それでも親子でいなきゃいけないの?』は『うちの母ってヘンですか』のシリーズ2作目になります。2作目からでも問題なく楽しめます。また、著者が実際に母と決別したことをまとめた『母がしんどい』(KADOKAWA)という作品もございます。興味があればぜひこちらもご覧ください。)

3冊目:『40歳になって考えた父親が40歳だった時のこと』吉田貴司(幻冬舎)

酒乱の父に浪費家の母…大変な家庭環境の中で育った著者。そんな著者が40歳で父親になったことで、大嫌いだった父親について思い出すことが増えた。それをきっかけに「父親」について、そして「父親になること」について考えたことをまとめた作品。壮絶な子供時代を振り返りながら、今の自分と対比させた上で著者が考える「父親」像とは…。

この作品を読むことで、自分にとって父親とはどういう存在だったかを振り返ることができます。また、父親になられた方なら、自分の父親の心境について今までとは違う視点で見えてくるかもしれません。

4冊目:『ありがとうって言えたなら』瀧波ユカリ(文藝春秋)

著者のお母様が病気で余命宣告を受け、闘病し亡くなられるまでを描いたコミックエッセイ。余命宣告を受けたときの衝撃、闘病中のケアと自身の生活、財産の処分、亡くなられた後の気持ちの置き所。著者のあとがきには心打たれます。いつか必ず迎えることになる親との別れ、とくに病気が原因となる方は少なからずいらっしゃると思います。その時が来たとき、どう親と向き合うか、考えるきっかけになるかもしれません。

5冊目:『沢村さん家のこんな毎日 平均年令60歳の家族と愛犬篇』益田ミリ(文春文庫)

年をとってきた両親と40歳の娘との3人暮らしを描いた沢村さん家のホーム・コミック。なんと平均年齢60歳の沢村家。3人の日常をそれぞれの視点から切り取った姿には、ほんわかしたり、しんみりしたり、もちろん、あるあるって思うこともたくさん。物語として大きな起伏はないけれども、それが心地良い。読み終えると、こんな家族の姿はいいなと思うのではないでしょうか。

どの作品も、親子関係の多様性と奥深さを教えてくれます。杉山さんが選んでくださった5冊は、それぞれ違った角度から親子の絆について描いており、きっと新しい発見があるはずです。

完璧な親子関係などありません。しかし、時間をかけて向き合うことで、きっと道は見つかるはずです。これらの作品を通じて、あなたなりの親子関係のあり方を見つけるきっかけにしていただければ幸いです。

協力:三省堂書店池袋本店
http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/
文章:戸田敏治

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