年末年始は、久しぶりに実家に帰省して仏壇に手を合わせたりお墓参りをしたりと、亡き人を想う機会が増える時期ではないでしょうか。現代社会では、核家族化や地域のつながりの希薄化により、供養のあり方も大きく変化しています。お墓の継承問題や新しい供養の形を模索する方も増えているかと思います。
今回は「供養について考えるきっかけになる本」をテーマに、三省堂書店池袋本店副本店長の杉山さんにお薦めの本を5冊選んでいただきました。実用的な知識を得られる本から、世界の葬送文化を知る本、そして死と向き合う人々の姿を描いた作品まで、幅広い選書となっています。杉山さんのコメントとともに紹介いたします。
井出 悦郎 「これからの供養のかたち」(祥伝社新書)
「供養とは何か」と問われると、葬儀のような実際に行われる儀式のイメージが先行し、その根底にあるものに意識を向ける方は少ないのではないでしょうか。本書は「供養とは何か」から説明しており、その価値観をベースに具体的なノウハウや変化しつつある現在の供養について述べられております。
身近な人、大切な人が亡くなったときの供養。こちらの作品を読むことで、その日の前でも、供養をする際でも、きっとお力になる本だと思います。
https://www.yuzankaku.co.jp/products/detail.php?product_id=8556
「葬儀」は供養のための代表的な儀式です。形式も様々で、仏教、神道、キリスト教のように宗教による違いに加え、葬儀の内容も、直葬、自然葬、なかには宇宙葬といったものあります。さらに細かく見ていけば、その土地の文化、風習による違いもあります。
日本だけでも様々な葬儀がありますので、世界でみたら一体どうなるのでしょうか。本書では、在日・在外公館にアンケートを実施した結果や海外での実地調査など、著者が丁寧な取材をもとにまとめ、200余の国と地域の葬送儀礼の実情を事典形式で紹介しております。形式は違っても、供養に対する考えに共通している部分もあり、世界の葬儀を通し「生き方」や「死に方」についても考えさせられる一冊となっております。
井上理津子「葬送の仕事師たち」(新潮文庫)
身近な人が亡くなる…。いざ、そのときが来ると事務手続きや葬儀に追われ、ご自身は供養をする間もなく日々がすぎていく。そんな経験をされた方は少なくないかと思います。そんなときに、黒子のように支え、滞りなく終えられるように手助けをすることを仕事にする方々がいらっしゃいます。
葬儀社のスタッフのように実際に相対する方もいれば、エンバーマー(*1)のような表に出てこない方もいらっしゃいます。その方々が、なぜその仕事を選んだのか、どのような気持ちで仕事しているのか。そして、その仕事に携わる覚悟とは。本書を通じ、供養にかかわる方々について知ることで、安心したり救われたりするかもしれません。
*1 遺体の消毒や防腐、修復、化粧などの技術を用いて遺体を衛生的に保全する専門技術者
天童荒太「悼む人」(文春文庫)
第140回直木賞受賞作。不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する若者・坂築静人。彼が悼む人は善人だけでない。悪人もその対象であり死を遂げた要因も関係ない。冥福を祈るわけでもなく、亡くなられた人を唯一の存在として覚えておく行為として”悼む”。そして、彼の旅を追う人、伴に行く人、遠くから見守る人…それぞれが静人に影響され、救われていく。
もしかしたら、供養の本質というのは彼のような存在なのかもしれません。本書で彼の旅を見届け、なぜ旅を続けるのかを知ることにより、ご自身の供養への向き合い方が変わるかもしれません。
キャサリン・M・サンダーズ 著
白根美保子訳「家族を亡くしたあなたに: 死別の悲しみを癒すアドバイスブック」(ちくま文庫)
供養を行うことが悲しみを癒すきっかけになることもありますが、葬儀や四十九日など、区切りが付いたときに、より悲しみを感じることもあるかと思います。その苦しさ、悲しさをほかの方に理解してもらうことは難しく、ご自身でもどうして良いかわからないという方は少なくありません。
本書は、死別の悲しみについての研究・教育で30年以上のキャリアがあり、臨床心理士として活動している著者が、悲しみの苦しさからどのように日常を取り戻していくのかを綴ったものとなります。著者自身もご子息を亡くされた経験があることから、悲しみの中にある方々に寄り添えるところもあると思います。読むことで悲しみが癒えるとは言えませんが、一つの助けになれば幸いです。
以上、どのような印象をお持ちになられたでしょうか。杉山さんが丁寧に選ばれた5冊は、供養という行為に様々な角度からアプローチしています。これはまさに、供養が一人一人の気持ちや状況によって異なる形を持つことを映し出しているかのようです。これらの本が、皆様の供養について考えるきっかけの一つとなれば幸いです。
協力:三省堂書店池袋本店
http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/
文章:戸田敏治 写真:<購入先>