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その先の親孝行2026.07.27日常の中でできる供養 故人の「行きつけ」を訪ねる [前編]

今年もお盆の時期(地域による)が近づいてきました。お盆休みには毎年、家族で先祖や親のお墓参りに行く人も多いでしょう。一方で、仕事や子育てに追われていると、なかなかお墓参りに行くのが難しくなり、「供養ができない……」と申し訳ない気持ちになってしまうかもしれません。そんなときは少し視点を変えて、お墓参りの代わりに親御さんがよく足を運んでいた店や場所をたどってみませんか? 親の想いが詰まった場所を訪ね、思い出を振り返ってみると、親の意外な一面を知ることができるかもしれません。今回は、実際に親の足跡をたどり、供養の想いに気づいた人のエピソードの前編をご紹介します。

亡き父のホームコースで、再びつながった縁

◆R.Kさん 会社経営

私と亡き父の共通の趣味はゴルフでした。幼い頃、父からゴルフを教わり、大人になってからはよく一緒にラウンドしていたのを思い出します。私が48歳のとき、父が他界し、その後相続で父がホームコースにしていたゴルフ場の会員権を引き継ぎました。それ以来「毎週土曜日は会員のゴルフ仲間とラウンドする」と決め、通っています。

間もなくして、私も父が大好きだったこのゴルフ場に通い始めました。クラブハウスのレストランや受付のスタッフが父のことを覚えていてくれたのがうれしかったですね。そしてあるとき、ラウンド中に知り合った人たちから「あなたのお父さんとよく来たよ」と声をかけられました。そこから少しずつ会話が増えて、一緒にコースを回るようになりました。

プレー中に父の口癖をまねすると、「それ良く言っていた」と懐かしんでくれたり、「Kさんとラウンドしているようでうれしい」とよろこんでくれたりして、胸の奥がじんと熱くなりました。父のゴルフ仲間から、かつて父がどんなプレーをしていたか、どんな表情で仲間と話していたかなど、皆さんが少しずつ教えてくれました。例えば、ショットのたびに「お父さんもこうやって打っていたよ」「息子(私)の話をよくしていた」「気配りのすごい人だった」など、私の知らない父の姿を知ることができました。その時間は、父がすぐそばにいるような不思議な温かさがありました。

また、クラブハウスにある父が使用していた個人用ロッカーは、番号も含めてそのまま私が引き継ぎました。使うたびに父を思い出し、「今日は○○さんと回るよ」と心の中で声をかけることもあります。

父を覚えてくれている人が、まだここにいる。父と一緒に笑った人がいる。 父の背中を見てきた人が、今も同じコースに立っている。その事実が、私の大きな支えになりました。それだけで、ゴルフ場が急に懐かしい場所に変わった気がしました。そして、今の私にとって、父がつないでくれたゴルフ仲間とのご縁はかけがえのないものになっています。人との縁を大切にしてきた父の人柄や、立ち居振る舞いに気づかされることが多く、改めて父に感謝しました。ゴルフ場の会員権とともに、父が築いた人間関係と思い出も引き継いだのだと実感しています。

私の息子もゴルフをたしなんでおり、今ではたまに別のコースを一緒に回っています。いつか、父との思い出が詰まったこのゴルフ場も息子に引き継ぎ、3世代にわたってご縁がつながればいいなと考えています。これからも父の面影を追いかけながら、仕事もゴルフも楽しみたいと思います。

取引先で偶然つながった「父の記憶」

◆R.Mさん(48歳)営業職

都内のメーカーで営業をしています。ある日、新規の取引先企業を初めて訪問したとき、思いがけず亡き父の思い出に触れる機会がありました。

訪問先の社長であるWさんと名刺交換した際、Wさんは私の名字を見て、表情を変えました。珍しい名字なので読み方が分からないのかと思いましたが、すぐに「この名字……もしかして」と言われ、私は一瞬、何のことか分かりませんでした。

するとBさんは、名刺から顔を上げて、「昔、一緒に仕事をした人と同じ名字だ。息子さんがR君という名前だと聞いたけど、君のことかな?」と言われ、Wさんが父の元取引先の人だったことが分かりました。父の名前がこんな場所で、こんな形で呼び起こされるなんて思ってもいませんでした。

その後、「お父さんとよく面談した喫茶店が近くにあるんだ。君にも見せたい」と、木の香りがする落ち着いた喫茶店に連れて行ってくれました。午後の光が差し込む窓際の席に座ると、Bさんはメニューを開きながら「君のお父さんはね、ここに来ると必ずクリームソーダを頼んだんだよ」と教えてくれました。

家では甘いものをほとんど食べなかった父。むしろ「甘いものは苦手だ」と言っていたので、「父が甘いものを……?」と思わず声を出してしまいました。父は中学生くらいの頃から、虫歯予防のために甘いものを一切食べなくなったと聞いていたので、驚きました。

Bさんは、父がよく「喫茶店の雰囲気がいいからこそ、甘いものが食べたくなるんだ」と言い、 仕事の話をしながら、うれしそうにクリームソーダのアイスを沈めていたと、話しました。思わず私もクリームソーダを注文し、溶けていくアイスを眺めながら、家では見せなかった父の顔が、この場所にはあったのだと感じました。「きっと笑顔でアイスを食べていたのだろう」「ここは父にとって唯一、童心に帰れる場所だったのではないか」など、父についてさまざまな想いをめぐらせました。父にも、父だけの世界があったのかもしれない、と気づかされた瞬間でした。

店を出る頃には、心が温かくなっていました。父の意外な「好き」を知り、父がより近くにいてくれる気がしたのです。「また来よう」と思いましたし、Wさんからも父の話をもっと聞きたいと思いました。父は思い出の中だけでなく、誰かの記憶の中で今も静かに生きていると知り、今度は自分の子どもたちも連れてきて、父の話をしたいと思います。

まとめ

故人が好きだった場所に立ってみると、少しだけ、故人と同じ時間を過ごしているような気持ちになりますよね。特別なことをしなくても、故人の足跡をたどり、その場所で彼らが何を感じ、何を見ていたのかを思い浮かべてみる。ときには、故人の視点で世界を眺めてみる。そうした小さな体験が、自然に感謝の気持ちを呼び起こし、お墓参りに向かうきっかけになるかもしれません。故人を偲び、思いを寄せることは、お墓に向かう前の「心の準備」にもなるはずです。

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