ご両親には普段から何かと世話になっているけれどもわざわざ「感謝のコトバ」を面と向かっていうのも照れ臭い。SNSで感謝の気持ちを伝えているものの、気持ちは伝わっているのか心もとない。
そんな皆さんにおすすめしたいのは「手書きの手紙」です。手紙を読むときのワクワクする気持ちはSNSで送られるメッセージとはまた違った楽しさがあるものです。長い手紙を書く必要はありません。様々な形で手紙をもらった人、書いた人にお話を伺いました。
和子さん(75歳・仮名)の娘さんは時々旅先から絵葉書を送ってくれるそうです。
「めったに連絡もしてこない娘ですが、『今こんなところに来ています。昨日は〇〇をしていました。お母さんはどうしている?』なんて、時々送ってくれるんですよ。
右肩上がりの字の変な癖は子どものころから変わりませんね。ていねいに書いているかどうかで、元気なのか、楽しいのか、忙しいのか。字数は少なくても娘の字を見ればすぐにわかります。手紙はうれしいですよ。今どきはポストの中を見ても請求書と広告くらいしか入っていないでしょう?(笑) ポストの中に手書きのハガキを見つけただけでも、ぱっと心が晴れやかになり、何度も何度も読んでしまいます」と和子さん。和子さんの娘さんは美術館にもよく出かけ、ポストカードに一言添えて送ってくれるそうです。
「モネやルノワールといった私の好きな作家の絵葉書に添えて書かれているのは自分の近況だったり、私が送った物のお礼だったり。気に入った葉書は写真立てに入れて飾ったりして楽しんでいます」。
美術館のポストカードは、部屋のインテリアとして飾ることができていいですね。
子どもは幼稚園に通う頃になると字を覚えます。そこで子どもに義父母あてに手紙を書かせてみたという百合さん(43歳・仮名)。でも覚えたての幼児の字はとても第三者が読めるものではありません。そこで百合さんが翻訳をして「こう書いています」と解説をつけ、ついでに「お元気ですか。先日は果物を送っていただきありがとうございます」など、簡単な手紙をつけて義父母のところに送っていたそうです。
何かと目にかけてくれ野菜や果物を送ってくれる義実家に対して、感謝の気持ちはあるもののうまくその気持ちを伝えられていなかった百合さん。「悪い言い方をすれば子どもを出しに使ったようなものだったのです」。
ところが何年もたって、義父母が亡くなり、家財道具を片付けに行ったときのこと。見慣れぬスクラップブックがあり、開いてみると百合さんと百合さんの幼き子どもの手紙が貼ってあったそうです。「遊び半分のような手紙でしたが、こんなに丁寧に取ってあったとは驚きでした。ここまで丁寧にとっておいてくれたのは、手書きの手紙が心に残ったからだと思います。SNSの膨大なやり取りでは、おそらく記憶には残らなかったのではないでしょうか」と百合さん。筆まめではなかったけれども、たまに手紙を送って良かったと思っているそうです。
病気で入院してしまったときには気持ちが落ち込むもの。そんなときにもらう手紙はまた格別うれしいようです。癌になり入院をしたときに栄子さん(82歳・仮名)がもらった手紙のお話です。
「入院中にもらった手紙は病床にあって何度でもいつでも読み返せるのでうれしかったですね」と栄子さん。娘から送られてきたのは、栄子さんが好きな歌舞伎役者のポストカード。そして特に病気には触れずに「再来月に出演するらしいから、いっしょに舞台を観に行きましょう」と書いてあったそうです。「それを見たら早く元気にならなくっちゃと思い、免疫力が上がりましたよ」と栄子さんはニッコリ。贔屓の役者のポストカードは壁に貼り、毎日眺め、看護師さんたちにはその役者について話し、もちろん退院後は娘さんと舞台を観に行ったということです。
郵便局に月に1度行くという桃子さん。用事を済ませたあとで楽しみにしているのは新しい切手を眺めること。「『絵本の世界シリーズ』や『季節のグリーティング』など、様々な新しい切手が出てかわいいんですよ。気に入ったものがあれば買います。最近オリジナル切手作成サービスというのがあるのを知ったので、今度父もかわいがっている猫の写真を切手にして送ろうかと思っています」と桃子さん。愛猫の写真が切手になっていたら、さぞかしお父様もビックリされることでしょう。驚くお父さんを思い浮かべて「切手をよく見てね」と書き添える手紙も楽しそうですね。写真をパソコンに取り入れて葉書に印刷をしてもよいですね。
絵を描くのが好きならば絵手紙はいかがでしょう。絵手紙の良さは、画がスッキリはっきりしていることで、目の悪い高齢者にも見やすいこと。字数も少なくてすみ、字を書くのが苦手な人が気持ちを伝えるにはうってつけと言えるでしょう。
誕生日や退職、還暦など節目のときなどは気持ちを伝えやすいですね。「おめでとうございます。これからも健康に気をつけて楽しい毎日を過ごして」。そんなメッセージでも、もらった側は十分うれしいことと思います。カラフルなグリーティングカードもたくさんあるので、選ぶのも楽しいもの。けれどもどんなに素敵なカードであっても必ず自筆で一言加えましょう。ご両親にとっては、それがうれしいのです。
最近自分のはまっているもの、新しく開拓した美味しいお店、読んで楽しかった本などを伝えてみましょう。自分にとってはちょっとしたことでも、ご両親にとっては新鮮に感じたり、共通の趣味だったことが分かり、実際に会うきっかけになることもあるかもしれません。
また、春は卒業、入学、異動、引っ越しなど様々な環境が変わる時期でもあります。子どもの報告はしていても意外と配偶者の環境の変化は報告を忘れがち。「〇〇の部署が異動になり、しばらくは気を遣う日が続きそう」など、一言報告をしておくとその後会った時の会話がグッとスムーズになります。
■まとめ
手紙を書くというのは難しく考えがちですが、今回伺った例はどれも大上段に構えなくても書けそうな手紙ばかりでした。そして手紙をもらった側は、思った以上に手書きの手紙を喜んでいるということもわかりました。
ある高齢の方は「SNSなどですと、既読がついてしまうので早く返事をあげないといけないかなと思ってしまいせわしないのですが、その点もらう手紙は気が楽です。うれしいメッセージをSNSでもらっても、いつの間にか埋もれて探せなくなってしまいます」とおっしゃっていました。
「いつも両親は元気そうだし、たまには会っているし、わざわざ感謝や近況を伝えなくてもいいかな」と思う人もいるかもしれません。しかし、元気そうに見えるのは、あなたに会ってとてもうれしくて笑顔になっていたからではないでしょうか。
会えない時間に手紙を書き、届くまでの時間、相手の方に想いを致すことは素敵なこと。
届いた側にとっては何度も読み返して心が温まる豊かな時間になることと思います。
今こそ大切な方へ、手紙を書いてみませんか?
取材・文/宗像陽子