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その先の親孝行2025.06.24地域別「お盆の風習」 〜感謝の想いを繋ぐ夏の行事〜

お盆。みなさんはこの言葉から、どのような情景を思い浮かべるでしょうか。帰省してお墓参りをしたり、家族が集まりご先祖様を偲んだり。多くの人にとって年に一度の特別な時間かもしれません。

お盆の入りにはご先祖様を家にお迎えし、盆明けにお送りするということはどこの地方でも同じですが、その時期や行われる風習は地域によって少しずつ違うようです。当たり前だと思っていることが、実は他の地域では珍しいということも少なくありません。この記事では、そんなお盆の地域ごとの違いをご紹介しつつ、形は違えども変わらない、ご先祖様や大切な故人への「想い」について考えていきます。

そもそもお盆とは

お盆は、ご先祖様が年に一度家に戻ってくるとされる期間のこと。「盂蘭盆会(うらぼんえ)」という仏教行事の一つが由来であると言われています。この期間に家族が集まり、ご先祖様をお迎えして供養をします。

お盆の入りから盆明けまでにすることはこちらの記事にまとまっています。

地域によって異なるお盆の時期

お盆と聞くと、8月中旬を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、地域によってお盆の時期は変わってきます。

東京や神奈川、静岡の一部などでは、7月13日~16日に行われます。東北や関西、九州地方など全国的にはほとんどが8月13日~16日に行われ、旧盆とか月遅れ盆と呼ばれます。
沖縄や奄美地方などのように8月中旬から9月にかけて毎年時期が変わるという地方もあります。全国的に月遅れ盆の地域が多いのには理由があります。新暦の採用以前は、亡くなった人が7月15日に帰ってくるとされ、その前後を含めた数日間をお盆としていました。ところが旧暦の廃止後、7月15日という日付をそのまま新暦に当てはめ、新暦7月15日前後をお盆ということにすると、ちょうどその期間が農繁期に重なるため1ヵ月ずらしたのです。また沖縄地方のお盆が毎年時期が変わるのは、旧暦を忠実に踏襲しているためです。
旧暦(太陰太陽暦)というのは月の満ち欠け(約29.5日で1ヶ月)を基本としており、新暦のカレンダー上では8月下旬になったり、9月上旬になったり年によって変わるのです。

地域によって多彩なお盆の風景

さて、お盆の風習も地域ごとに個性的です。いくつか代表的なものをご紹介しましょう。

■ 青森
お盆の入りは8月13日です。七夕祭りや精霊送りと結びついた青森県のねぶた祭は8月2日~8日に賑やかに開催されます。各家では、もち米とコーンスターチを合わせて作る「お盆灯ろう」という色とりどりのもなかをお墓の前や仏壇に飾ります。

■ 長野
小布施地方では8月12日にお花市が開かれ、ご先祖様にお供えする花を買う客で賑わいます。各家は、13日には「カンバ」を燃やし、その火を提灯につけてお墓にご先祖様をお迎えに行きます。「カンバ」は白樺の木の皮をはいで丸めたものです。家ではてんぷら(精進揚げ)やお焼きなどを用意します。

■ 京都
8月13日に迎えたお精霊さん(おしょらいさん)を8月16日に行われる五山の送り火で冥土へ見送ります。東山(大文字)、松ケ崎(妙・法)、西賀茂(船形)、大北山(左大文字)、嵯峨(鳥居形)と五つの山に順に炎が灯され、ご先祖様の霊を送り出します。各家では、小さな餅の「おけそくさん」や団子、蓮の花のらくがんなどのお菓子やお膳をお供えします。お膳はお盆の間は毎日違うものをお供えをします。

■長崎
毎年8月15日に行われるのは「精霊流し」です。お供え物を川に流す静かな「精霊流し」と違い、長崎の「精霊流し」はにぎやかです。1年以内に亡くなった人のために家族や町内の人たちの手で作られた10メートルほどの精霊船で街を練り歩くのです。船は故人の趣味や人となりを思い起こすように派手に飾りつけられます。交通規制が行われ、町中で爆竹が鳴らされ、大変にぎやかなお盆行事となります。お墓でも爆竹が鳴り、花火が上がります。爆竹を鳴らすのは中国文化の影響で、魔除けの意味があるそうです。

■ 沖縄
旧暦の7月に行われる「旧盆」は沖縄にとって一大イベントです。エイサーは、太鼓や三線を打ち鳴らしながら踊る伝統芸能で、ご先祖様を迎え、そして送り出す役割を担っています。各家ではウチカビという天国のお金をお盆の最終日に燃やして、あの世に戻るご先祖様がお金に困らないようにします。

お盆の時期に花火大会や盆踊りをする地域も多いですね。大きな大会だけではなく、長崎や沖縄のようにお墓の前で花火をしたり、帰省した際に祖父母たちと共に庭先で線香花火を楽しんだ記憶のある方も多いかもしれません。

花火も盆踊りも今ではすっかり娯楽になっていますが、もともとはお盆に戻ってきたご先祖さまを迷わないようにお迎えし、慰め、またあの世に送る行事として、さらに地域の人達の交流の場として行われてきたのですね。

長岡の花火大会は、昭和20年の空襲で亡くなった死者の鎮魂を目的に、毎年8月1日に盛大に行われます。

それぞれの故郷でお盆を経験する

お盆の時期や風習が地域によってずいぶん異なっていることには驚きですね。それでも、家族が集まる。お墓が近ければお墓参りをしてご先祖様をお迎えに行く。ご先祖様を供養するという根幹はどこも変わらないようです。

例えば、結婚してご夫婦それぞれの地元が違う場合、お盆の時期がずれるということも珍しくありません。

御自身の実家が東京で、夫の実家が新潟である百合子(仮名)さんにお話を伺いました。

「私の実家は東京なのでお盆は7月に行い、実家に兄弟たちもそろいます。お墓は遠いので墓参りはせず、家でご先祖様を迎えます。オガラをほうろくに乗せて燃やし、その火をまたぐのは東京流だそうです。精霊馬と牛を子どもたちといっしょに作り『お迎えはご先祖様が早く来るようにりんを早く鳴らし、帰りはゆっくり帰るようにゆっくり鳴らすんだよ』と説明して、手を合わせ、仏壇にもお供えをします。

夫の実家は新潟で、8月には家族で帰省しお墓参りをします。お盆に帰省すると、お盆提灯が飾られ、いつもと違う雰囲気を子どもたちも感じていると思います。家にお坊さんが来てお経を読んでくれることが新婚のときは新鮮でした。それぞれの故郷で子どもたちにご先祖様について話が聞けるいい機会だと思っています」

感謝の気持ちをご先祖様にむけて。

普段の生活では忘れがちですが、ご先祖様がつなげてきた命がなければこうして私たちが生きていることはできません。お盆は、ご先祖様に思いを馳せるよい機会です。いつも身近な人に「ありがとう」と言うように、ご先祖様や今は亡き大切な人たちに「おかげさまで元気に暮らしています」と感謝の気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか。

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