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今できる親孝行2025.11.25国際結婚で見えてきた「親孝行」の多様な形。文化を超えて共通する想いとは

親孝⾏と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。豪華な贈り物や、記念⽇のサプライズパーティーなどを想像する⽅もいるかもしれません。お⾦をかければいいのか、時間をかければいいのか……。しかし、親が本当に喜ぶ親孝⾏の形は、実はもっと⾝近なところにあるのかもしれません。

今回は、国際結婚をされた40代の男女3名に集まっていただき、「親孝行」について語り合っていただきました。パートナーの出身国はフィンランド、カナダ、中国と様々。異なる文化を持つ家族との関わりの中で、皆さんはどのような親孝行を実践し、何を感じているのでしょうか。文化の違いを超えて見えてきた、親孝行の本質に迫ります。

<ご参加の皆様> 

Lさん(女性):43歳、夫はフィンランド人、子供3人(中学生と小学生)と同居、実家は兵庫
Kさん(男性):46歳、妻はカナダ人、子供2人(高校生と中学生)と同居、実家は石川
Mさん(女性):45歳、夫は中国人、実家は大阪、義実家は中国・広州

※ご参加者の情報は個人の特定を防ぐため一部変更しております。

それぞれが考える「親孝行」の形

座談会の冒頭、「親孝行とは何か」という問いかけに、参加者の皆さんはそれぞれの想いを語ってくれました。

Lさんは「育ててくれた親に感謝の気持ちを持って恩返しをすること」だと話します。一方、Mさんは「物を買ってあげたり、旅行に連れて行ったりすることかと思っていました」と前置きしつつも、「でも、普通にちょっと家に寄るとか、電話するとか、そばにいる気持ちが大切なのかな」と、日常的なコミュニケーションの重要性を語りました。

Kさんは照れくさそうに「日頃の生活をシェアすること」だと教えてくれました。週に1回程度、子供たちの写真を送り、母の日と誕生日には「産んでくれてありがとう」と必ず感謝のメッセージを送っているとのこと。お母様は、Kさんがまだ幼い頃に離婚したことを申し訳なく思っているそうで、それに対して「そんなことない」という想いを込めて、感謝を伝え続けているそうです。

それぞれの答えは異なりましたが、親を思う気持ちを何らかの形で伝えようとしている点は共通していました。

「親が喜ぶから」ではなく「自分が会いたいから」。言葉のない国の家族観

興味深いのは、フィンランドやカナダには「親孝行」にあたる言葉が見当たらないという点です。

Lさんがフィンランド人の夫に「親孝行」について尋ねたところ、「なんですかその言葉?」と不思議そうな顔をされたといいます。もちろん、両親との精神的距離が遠いわけではありません。夫は週に1回程度、フィンランドの両親とオンラインで電話をしています。「親が喜ぶからやるというより、自分が両親と接したいから接する。そこが日本と違うところかもしれません」とLさんは分析します。

Kさんのカナダ人の妻も同様で、毎年夏にカナダに帰省すると、親や家族だけではなく大勢の親戚までもが集まるホームパーティーが、頻繁に開かれるほど良好な関係です。「親や家族との時間を大切にするのが当たり前の文化。親孝行という特別な言葉で定義しなくても、自然に実践されているようだ」とKさんは語ります。

両親との会話や時間を、自分が大切にしたいから大切にする。その結果として親も喜んでくれるなら、それは立派な親孝行と言えるのかもしれません。

一方、Mさんの夫の出身国である中国では、親孝行に近い言葉があり、その概念は日本よりも強いといいます。「老後の面倒を見るのが当たり前という考え方が根強い」とMさん。中国では社会保障制度が十分ではないこともあり、子供が親を支えるという意識が文化的に色濃く残っています。

「親孝行」という言葉の有無にかかわらず、どの文化にも親を大切に想う心は根付いているようです。

異文化に触れて変わった、親孝行への意識

国際結婚を機に、異なる文化に触れることで皆さん自身の親孝行への意識も変化していました。

Lさんは微笑みながら「夫が誕生日に必ず連絡しているのを見て、私も誕生日くらいメッセージを送ろうかなと思うようになりました」と語ります。Kさんも「妻が家族と密に連絡を取り合っているのを見て、自然と自分も母親に連絡する頻度が増えた」と、パートナーの文化に影響を受けたことを認めます。

Mさんは「中国は外食文化が根付いているので、帰省すると毎日外食。食事の時間も2時間以上かけてゆっくり過ごします」と、義実家でのスタイルを教えてくれました。

また、それだけでなく義両親は何から何まで世話を焼いてくれるといいます。「自分で洗濯しますと言っても、おばあちゃんが『ええからええから』と全部やってくれる。何でもしてくれるのが当たり前という文化なんです」。最初は戸惑ったものの、今では「思い切って甘えることも、親孝行の一つなのかもしれない」と受け入れているそうです。

Kさんもまた「カナダでも食事の後にみんなでゆっくり会話する時間が大切にされている」と語ります。「日本では母親が料理を作り続けて、家族が食べ終わってから自分が食べることが多いけれど、カナダではみんな一緒にテーブルを囲む。家族全員が平等に食事を楽しむ文化なようです」。

これにLさんも共感します。「フィンランドは食洗機にプレートをポンポン入れたら、すぐリビングのソファへ。日本のように母親だけが台所に立ち続けるということはないですね」。

多文化の中で育む、子供たちへの想い

異なる文化に触れることは、皆さん自身の親孝行だけでなく、子育てにも影響を与えているようです。

Lさんは、家族をチームと捉え、「メンバーとして貢献しよう」と子供たちに伝え、洗濯物や食器洗いなど、それぞれに役割を持たせているとのこと。同時に「日常に感謝することも伝えています。こういう風に日々暮らせるのは、本当にありがたいことだから」と、日本が大切にしてきた感謝の心も伝えています。

Kさんの家庭では、「自主性を尊重する」姿勢が反映されています。「妻の両親は、相談されても最終的には『あなたが決めなさい』というスタンス。うちもそれを意識しています」。子供たち自身が考え、判断する力を育てることを大切にしているようです。

それぞれの家族の良いところを取り入れながら、子供たちに家族を大切にする心を伝えていく。そんな姿勢が印象的でした。

距離を超えて届ける想い

座談会の最後、印象に残ったことを聞くと、Kさんは真剣な表情でこう語りました。

「親孝行で改めて感じたのは、距離です。毎年カナダに帰るのは、費用も時間もかかります。8000キロの距離を移動するのは、簡単なことではありません。それでも、大切な両親と一緒に過ごす時間を提供することは、何物にも代えがたい。これは覚悟のいる親孝行の一つの形だと思っています」

Mさんは、温かい表情でこう語ってくれました。「距離が近いとか遠いとか、色々あるけれど、子供を気にかける親の気持ち、親のことが気になる子供の気持ち、そこは万国共通なのだと感じました」。

Lさんは「欧米の家族を大切にする文化から学んだことは大きい」としながらも、「『親が喜ぶこと』をやってあげようと思っていたけれど、そうではなく、『自分が家族と接したいから』接する。その違いに気づけたことが収穫でした」と、自身の考え方の変化を語ってくれました。

形は違っても、共通する想い

座談会を通して見えてきたのは、国や文化が違っても、親が子を想う気持ち、子が親を想う気持ちは変わらないということ。違うのは、その表し方だけです。

例えば、「親が喜ぶから」ではなく「自分が会いたいから」会いに行く。食事の時は母親も一緒にテーブルを囲み、後片付けは食洗機に任せてみんなでソファへ。何から何まで世話をしたがる義両親に思い切って甘えてみる。

親孝行って何をしたらいいんだろうと難しく考えるより、振り返ってみて親が喜んでくれたかどうかを基準にしてみる。そんな視点を持つことで、親孝行のバリエーションが自然と広がっていくかもしれません。 身近に外国の方がいたら、「あなたの国では、どんな風に家族と過ごしますか?」と聞いてみてください。きっと、新しい親孝行のヒントが見つかるはずです。

文章/写真:戸田敏治

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