お墓参りの際、墓石のデザインや形に目を留めたことはありませんか。前回は最近のお墓に刻まれる言葉についてご紹介しましたが、今回は言葉以外にも写真や絵、特別なデザインなど、最近増えている墓石の形について、アンケート結果をもとにご案内いたします。
今回もまた、本サイト「孝行好日」を運営する石材店、株式会社加登のスタッフにアンケート調査を行い、建立数の多い現場から最新のトレンドが見える現場まで、異なる特徴を持つ複数の現場からの声をお聞きしました。
墓石に刻めるのは文字だけではありません。最近では、写真や絵、故人の直筆文字、イラスト、図柄など、様々なものを刻むことができるようになりました。
例えば、お孫さんが描いた絵や文字を刻むケースがあります。ある石材店では、小学2年生のお孫さんが書いた「ありがとう」の文字を墓石に刻んだ事例があったそうです。霊園の近くに住むお孫さんが、おじいちゃん・おばあちゃんへの想いを込めて書いた文字。それは、家族の絆を永遠に残す素敵な贈り物となりました。
他にも、故人が生前に書いた書道作品や、美術教師であるお嬢様が得意の龍のイラストをデザインされたお墓もあります。実はこの龍の絵、よく見ると8匹の猫が隠れています。そこには、ご家族のかけがえのない想いが込められていました。
このご家族、かつて8匹の保護猫を飼っておられました。すでに亡くなった猫もいたため、「お墓は一緒に入れなくても、イラストの中でなら再びみんなで一緒にいられる」という、切なる想いが込められていました。当初は龍と猫のどちらのデザインにするか迷われたそうですが、「せっかくなら一緒に」という温かいお気持ちから、この特別なデザインが生まれたそうです。
故人への想いや、故人が大切にしていた存在を形として残すことで、お墓参りのたびに家族の物語がよみがえり、温かい気持ちに包まれることでしょう。
アンケートの結果、圧倒的に人気なのは「花」でした。中でも桜が特に選ばれているようです。日本人の心に深く根ざす桜の花は、美しさとはかなさ、そして再生の象徴として、多くの方に愛されています。
花以外では、ペットのイラストも人気です。犬や猫の肉球、鳥、うさぎ、亀、魚など、家族の一員として共に過ごしたペットの姿を刻む方が増えています。また、故人の趣味を表すゴルフクラブやピアノ、バイクなどのイラスト、音符なども選ばれているとのことです。
少し変わったところでは、会社のロゴを刻むケースもあるそうです。仕事に人生を捧げた故人の誇りを形として残したいという、ご遺族の想いが感じられます。
従来の縦長の和型墓石から、最近は様々な形の墓石が選ばれるようになりました。特に人気なのは以下のようなタイプです。
■棹石(軸石)が幅広な墓石
洋風のイメージが受け容れられるようになってきたことや、好きな言葉やイラストを彫刻できることが選ばれる理由となっています。
■丘カロート
地上にカロート(納骨室)を設置するタイプで、納骨しやすく、メンテナンスもしやすいという利点があります。
■丸みを帯びたデザイン
角のない優しい印象のデザインが増えています。柔らかな曲線は、見る人の心を和ませる効果があるのかもしれません。
さらに特徴的なのは、ステンドグラスやガラスをはめ込んだデザインです。光が差し込むと美しく輝き、まるで故人の魂が輝いているかのような印象を与えます。洋碑スタイルのお墓と組み合わせることで、モダンで個性的な仕上がりになります。
墓石の形というのは、意外なほど自由にデザインできるようです。図面があれば、ハート型やゴルフバッグ型など、故人が愛したものや、遺族の想いを形として表現することも可能とのことです。
こうした自由なデザインの中で、パチンコ台をイメージした墓石を作られた方がいらっしゃいます。
一緒に散歩されている中、交通事故でご主人を亡くされた奥様。「あの時から時間が止まったまま」とおっしゃる奥様が、「他にはないお墓を作ってあげたい」という想いで建てられたものです。生前パチンコがお好きだったご主人のために、特別なデザインを考えられました。
軸石はチューリップの形(玉が入る所)にし、パチンコ台とドル箱も設置。ドル箱の玉は1つ1つ磨き上げられ、形にもこだわり、「フィーバー」の文字も刻まれています。石はエメラルドパールを使用し、華やかで賑やかなお墓に仕上がったそうです。ご主人様も天国で喜んでおられると思います。
「あの世でもパチンコを楽しんでほしい」という奥様の愛情あふれる想いが込められたこのお墓は、「第23回 全優石 想いを込めたお墓デザインコンテスト」にも入賞しました。施主様を含め、親族の方々にも満足して頂けました。
このように、故人が愛したものを形にすることで、お墓参りに訪れるたびに「ああ、パチンコが好きだったなあ」と、在りし日の姿を思い出すきっかけになります。それは単なる墓石ではなく、故人と遺族をつなぐ大切な架け橋となるのです。
故人への想いを形にした、世界にひとつだけのお墓が増えています。それは、画一的だった墓石文化が、より個人の人生や家族の絆を大切にする方向へと変化していることの表れかもしれません。
お墓は、故人が眠る場所であると同時に、残された家族が故人を偲び、対話する大切な場所でもあります。だからこそ、そこに刻まれる言葉や図柄、形には、それぞれの家族の物語が込められているのです。
お墓参りに行く際は、ぜひ他のお墓にも目を向けてみてください。そこには様々な家族の想いが形となって表現されています。きっと新たな発見があることでしょう。
そして、もしこれからお墓を建てることをお考えでしたら、故人への想いをどのような形で表現したいか、ご家族でゆっくりと話し合ってみてはいかがでしょうか。その想いこそが、世代を超えて受け継がれていく、かけがえのない家族の宝物となることでしょう。
文章:戸田敏治