「先祖はどんな人だったのか?」「何をしていた家系なんだろう……」と気になったことはありませんか? 故人を偲んだり、お墓参りをしたりすると今の自分はどこからやって来て、どんなルーツがあるのか知りたくなることもありますよね。
近年では、家系図の作成に関心を持つ人が増えています。その背景には、2024年、戸籍の広域交付制度の開始によって先祖調査のハードルが下がったことや、自分のルーツや家族の歴史を見つめ直したいという意識の高まりがあります。また、終活の一環として子・孫へ家族の歴史を継承したいと考える人も少なくありません。
そこで、家系図作成専門の行政書士で、『家系図つくってみませんか?』(ポプラ社)の著者、丸山学さんにこれまでの先祖調査のエピソードやその魅力を聞きました。

行政書士 丸山学さん
1967年埼玉県生まれ。2001年に行政書士事務所を開所。自らのルーツを900年分たどったことをきっかけに、家系図作成業務を本格化。江戸時代やそれ以前に及ぶ先祖調査・家系図作成業を積極的に行い、年間80件近い案件に取り組んでいる。数多くのテレビ・新聞などのメディアに出演。著書も多数。
ホームページ 「1000年家系図」
編集部(以下略)― 丸山学さんは、「1000年家系図」を主宰し、長年先祖調査・家系図の作成に積極的に取り組んでいます。なぜ、この事業を始めようと思ったのですか?
丸山学さん(以下、丸山) 2001年に行政書士の資格を取得、事務所を開業し、何を専門分野にすべきか悩んでいたんです。そんなとき、行政書士の先輩が家系図作成を専門にしており、「面白そうだな」と思ったのがきっかけです。一般的に士業は法律に関わる困りごとを解決する職業ですが、私は士業でもエンターテイメント的な仕事ができるんじゃないかと考えました。子どもの頃から古いものが好きで、江戸時代の大相撲の記録などを探し歩いたこともあります。さまざまな昔の資料に触れる先祖調査は、自分に向いていると思いました。

「先祖調査・家系図作成の依頼は年間約80件。そのうち30件程度は戸籍以上の詳細な先祖調査を行っています」と丸山さん
―― 先祖調査・家系図作成のプロセスを教えてください
丸山 まず、戸籍を取得し、その後、古文書などの文献、家族や親族への聞き取りなど情報収集しながら、情報を読み解き、整理します。依頼者一族のお墓や家が地方にある場合は、現地まで赴いて調査。ご先祖の年代や続柄を確定したのち、 家系図としてまとめます。当サービスでは戸籍取得のみのコースであっても、国会図書館でその地域の郷土誌を読むなどして、「歴史探訪報告書」という家系の流れが推測できる資料を作成。単純に戸籍を取得するだけではない形になっています。
戸籍は明治時代にできたものですから、今、取得しても大体、江戸時代後半の先祖までさかのぼれます。しかし、それ以上さかのぼるとなると、道なき道の世界に入ります。最初は、そもそもどこまでできるのかと思っていたのですが、試行錯誤するうちに、意外とスムーズにいくことが分かりました。そのためには古文書や墓石の記録なども必要ですが、江戸時代のものなどは肉眼では読めないものもたくさんありますね。

丸山さんが調査・作成する「歴史探訪報告書」 には、依頼者の想定される祖先、家紋、古文書などの資料から読み取れることなどが記載されている
―― 古い墓石の記録などはどうやって読むでしょうか? また、先祖調査に必要な道具があれば教えてください。
丸山 まず、体力は必要ですね。例えば、地方の山奥などにお墓があるケースが多いので、実際に現地に行くことが多いです。そして、一番重要なのは「拓本(石碑・墓石・金属板などに刻まれた文字や模様を、紙に写し取る記録方法)」。墓石の文字が読めない状態でも、拓本を取ると肉眼では見えないわずかな凹みも読み取れます。また、スマホのLiDAR機能で墓石を立体的に測定することで、墓石のへこみ具合が分かるため、そこから情報が読み取れることもあります。あと、赤外線カメラも必要。お位牌がすすけて真っ黒になって文字が読めない場合でも、赤外線カメラを使うとすぐに読めます。

先祖調査の際に活用されている道具
―― 墓石はアナログとIT機器をハイブリッドした方法で解読しているのですね。でも、古文書などは読むのが難しそうなイメージがあります。
丸山 こちらもIT技術を活用しています。古文書で使用されている崩し字を読むAIアプリが便利ですね。完璧な精度とはいえませんが、大体は読めます。古文書は正式な記録とされる公文書として残っているものがほとんどですから、崩し字とはいえ読みやすく書かれています。特に氏名や石高などの記録は読みやすいですね。
―― 先祖調査・家系図制作を依頼する人はどんな想いを持っているのでしょうか?
丸山 明確な理由はなく、「何となく気になったから」という方が多いですね。親御さんの他界をきっかけとした依頼が一番多いです。親に先祖の話や昔のことを聞けなくなって初めて、「うちはどんな家系なのだろう」「先祖はどんな人だったんだろう」と思うのでしょう。「先祖を調べたら、実は偉人とつながりがあった」というふうな期待を持っている人はほとんどいません。
―― うまく言葉にできないけれども、先祖について知りたい気持ちは理解できます。
丸山 私は、「先祖調査=究極の自分探し」なのではないかと考えています。自分が生まれる前には何人もの先祖がいて、そのDNAを受け継いでいると考えたとき、「自分はどこから来て、一体何者なんだろう」と気になりますよね。どんな家族のストーリーのもとに、今の自分がいるのかを知ることは、先祖に想いを馳せ、感謝する。改めて供養の気持ちを持つきっかけになると思います。

―― これまで手掛けた先祖調査・家系図制作で印象的だったエピソードを教えてください。
丸山 北海道在住の人から、「ご先祖は北海道に居住する前、本州のどこかにいたはずなんです。でも、よく分からないので調べてほしい」といった依頼がありました。調査の結果、この先祖は、江戸時代に長州藩(現在の山口県)士だったことが判明しました。激動の幕末期に長州藩士として過ごしながら、明治維新後は失業状態に置かれ、おそらく新天地を求めて北海道に来たのだろうと推察されます。この依頼者さんは、初めて自身の先祖について詳細を知り、その苦労や生き様を想像し、感慨深かったようです。
―― 他にも印象的なエピソードはありますか?
丸山 ある珍しい名字を持つ人の調査が印象に残っています。この依頼者の現居住地から何百キロと離れた違う県に、同じ名字の家が十数件ありました。この県で依頼者のご先祖が江戸時代の初期に来ていることを示す石碑などを見つけ、おそらく400年ぐらい前に分家したのだろうと推察しました。どれだけ距離が離れていても、国内のどこかに同じルーツを持っている人がいる。それが分かるだけでも、温かい気持ちになりますし、一層家族や自分を大事にしようと思えますよね。

―― 先祖調査・家系図の依頼者からはどんな声が届きますか?
丸山 実は、先祖調査は依頼者の親族から話を聞くことから始まりますので、依頼者自身も親族から話を聞く機会が増えます。「今まで知らなかった祖父母の話などを知れるだけでも感動する」といった感想をいただきますね。先祖調査をきっかけに、家族や親族との絆がより深まると思います。
―― 2024年に始まった戸籍の広域交付制度、IT技術の発達などで、以前より先祖調査はやりやすくなったのでしょうか? 「私も先祖について知りたい」と思ったとき、気軽にできますか?
丸山 はい、とても簡単です。市役所で「自分の家系をたどってください」と伝え、戸籍を出してもらうと、だいたい5代ぐらい前までの先祖の氏名が判明します。それさえ分かれば、「国会図書館デジタルコレクション」で、先祖の氏名を検索すると、さまざまな結果が出てきます。利用者登録(無料)は必須ですが、ネット上で誰でも気軽に先祖調査ができるようになりました。
―― 2024年に始まった戸籍の広域交付制度、IT技術の発達などで、以前より先祖調査はやりやすくなったんですね。
丸山 先ほどお話したように、IT技術が発展して便利になった反面、実はやりにくくなった部分もあります。昔のことを分かる人が高齢化し、減っていく中、個人宅に眠っている古文書がそのまま放置され、紛失したり痛んでしまったりする。家族や地域の記録が消えてしまうのは残念でなりません。
―― 今、世界的にも先祖調査がブームになっているそうですね。今後、どのように発展していくと思いますか?
丸山 そうですね。この流れは世界でも起こっており、古い記録がデジタル化され、先祖の記録が調べられるようになっています。海外では、先祖調査がかなり盛り上がっていて、米国や欧州を中心にブームになっているようですね。 現在では、遺伝子検査の結果をアプリに登録して、同じ、もしくは近い遺伝子を持つ人とマッチングできるサービスもあります。技術的にもマッチングの精度は完璧とはいえず、参考程度かと思いますが、夢がありますよね。このように、数年前まではちょっと考えられなかったようなテクノロジーが急速に広まり、今後もますます発展していくでしょう。

これからは家系図の楽しみの一つとして、「没入型」がテーマになってくると思います。先祖の歩みが分かったときに、例えば、居住していた村の情報をAIに読み込ませて、さらにご先祖のアバターのような画像や動画を作り出せる可能性があります。古い写真から骨格などを分析して、その人の声で子孫に語りかける動画なども作れると思います。ご先祖が家訓を述べる……なんて動画ができたら説得力が出ますよね(笑)。
―― 丸山さんが考える先祖調査・家系図作成の魅力、意義を教えてください。
丸山 1つ目は自分探しのヒントになるところですね。先祖の氏名や昔の居住地など点として残っていた情報が、先祖調査によって線としてつながり、自分のルーツや先祖のストーリーが分かってくる。そうすると、自身の存在意義や生きる尊さをより実感できるのではないでしょうか。改めて身近な人への感謝や思いやりの気持ちが湧き、親が健在な人は一層親を大事にしようと思うきっかけになればいいですね。
2つ目は、先祖調査を通じて地域の歴史にも触れることで地域への理解や、愛着が深まることです。例えば、「ただの田舎」だと思っていた地元や実家が、先祖調査によって物語が添えられると、特別なものに思えるはずです。

丸山さんから先祖調査について話を聞き、改めて「家族」や「自分自身の存在」について深く考えさせられました。私たちは普段、今を生きることに精一杯で、先祖の歩みや苦労に思いを巡らせる機会はそう多くありません。しかし、故人や先祖の人生に想像力を働かせると、今の自分は決して一人でここに立っているわけではないのだと実感します。つらいときや苦しいとき、「ご先祖もそれぞれの時代を必死に生き抜いてきたのだ」と思うだけで、不思議と心が軽くなり、前に進む力をもらえる気がします。
また、親が健在のうちに一緒に先祖調査を行うことで、これまで知らなかった想いや記憶に触れる貴重な機会になり、より家族や親族とのが深まると思います。先祖調査は、自己肯定感や感謝の気持ちを育み、過去から未来へと希望を手渡してくれる営みなのだと、強く心に残りました。

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著者:丸山 学(行政書士)
発売:2025年4月9日