家族や大切な人に想いを伝えるビデオレターギフト「KAHOU(家宝)」をご存じでしょうか? 「KAHOU」とは、「親孝行で後悔する人がいない世界を実現する」をビジョンに掲げる株式会社Pietyが運営するサービスです。「親孝行にイノベーションを起こしたい」と話す同社代表の加治木基洋さんに、事業を立ち上げたきっかけや親孝行への想いを聞きました。
編集部(以下、略) 加治木さんは、大学生時代に、「親孝行で後悔する人がいない世界を実現する」をビジョンに掲げるPietyを立ち上げました。起業のきっかけを教えてください。
加治木基洋さん(以下、加治木) 私が大学生になるタイミングで両親が離婚し、私は母と祖母と暮らすようになりました。母は臨床検査技師で、祖母は現役の経営者。2人とも朝から晩まで忙しく働き、自分のやりたいことは我慢して、私と双子の妹の面倒を見てくれていたんです。ですから、ずっと「母と祖母を幸せにしたい。そのために何かしたい」と、漠然と考えていたんです。
その後、東京の大学に進学が決まっていた私は、広島県から上京。当時は2020年、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた時期で、キャンパスに通えず、新しい友人もできませんでした。仕方なく半年ほど自宅にこもって、YouTubeなどでさまざまな分野の人の話を視聴したり、本を読んだりしながら、自分と向き合っていたんです。その中で、ある起業家の話を聞き、ビビッときました。そこで、「私も起業して、母と祖母を幸せにするために事業を興したい」と思ったんです。
―― その後、スタートアップ企業でインターンとして働き、ビジネスノウハウを学んだ加治木さんは、起業に向けて動きだしました。
加治木)インターンとして実社会で働いた経験が起業の後押しになりました。私も、インターンさせてもらった会社の社長のように、自分のビジョンを掲げて、その実現を目指す事業をやりたいと思ったんです。そこで、何をテーマに起業するか、約1年かけて熟考しました。
そのとき、2つの原体験から、「親孝行」をテーマにしたいと考えました。まず、1つ目は先ほどお話したように、母と祖母が幸せに過ごす姿を見たいと思っていること。そして2つ目は、友人が母親を亡くしたことです。ある日、私が友人と一緒にいるときに、彼の母親の訃報が飛び込んできました。私の目の前で友人は号泣し、「何も親孝行してあげられなかった」と、後悔の言葉を口にしていました。
その姿を見て、私も今、母が突然亡くなったら、すごく後悔するだろうなと思ったんです。そのときに、なぜ後悔するのかをもっと深く考えたいと思い、多くの人に親孝行についてどう考えているかを聞くことにしました。
―― それから、加治木さんはインターネット上でのアンケートも含め、親を亡くした約1000人に、「親孝行で後悔していること」をヒアリングしました。その結果、どんなことが分かったのでしょうか?
加治木)ヒアリングの結果から、私は親孝行での後悔は大きく分けて3つあると分析しました。まず、最も多かったのが、「きちんと感謝の気持ちを伝えておけばよかった」という後悔。次に、日頃から気になっていたことを聞けなかった後悔です。例えば、「幸せな人生だった?」「自分を生んでよかった?」「自分が口ごたえしたとき、本当はどう思っていた?」など。
3つ目は、家族写真や動画など、もっと思い出を残しておけばよかったというものです。ヒアリングに協力してくれたある男性は「もう母の声を思い出せない」「親の姿がもう分からない」と話していて、切なくなりました。
ーー 親孝行でさまざまな後悔を抱えている人が少なくないんですね。
加治木)はい。改めて、親を亡くしてから親孝行したいと考えても難しいと思いました。一方で、親が健在の人は、「親孝行=未来」のことだと思っている人が多いんです。例えば、「いつか家を買ってあげたい」「旅行に連れて行きたい」「孫の姿を見せたい」など。もちろん、それらも素晴らしい親孝行ですが、今すぐできないことも多いです。
もし、今、親が亡くなってしまったら、何もできなかったと、すごく後悔するだろうなと感じました。だからこそ、20代、30代の若い人にも家族の暖かさに目を向け、親孝行についてもっと想いを馳せてほしいと思ったんです。
―― こうした加治木さんの「親孝行で後悔する人を減らしたい」という想いが、Pietyの設立、「KAHOU」のローンチにつながったんですね。
加治木)はい。ただ、親との関係性は個人差が大きいですし、先ほど話した3つの後悔を私たちの事業で完璧に解消するのは難しい。でも、親への日頃の感謝や想いを伝えるためのサポートは、できるのではないかと考えました。そこで、ビデオレターギフト「KAHOU(家宝)」をローンチしました。
―― 「KAHOU(家宝)」とは、どんなサービスなのでしょうか?簡単に内容を教えてください。
加治木)「KAHOU」は「家宝」の意味で、大切な家族に向けた想いをビデオレターの形でプレゼントするサービスです。打ち合わせを行った後、弊社のスタッフが撮影、編集し、映像を確認いただいてから指定場所へお届けします。ビデオレターは約8分、QRコード付きのオリジナルプレートでご案内し、限定URLから動画を視聴いただけます。
―― どんな場面で「KAHOU」を利用する人が多いですか?
加治木)40代、50代の女性が多いですね。親が高齢になり、例えば、還暦や古希などのお祝いで、改めて感謝の気持ちを伝えたいという方に利用いただいています。20代、30代の人は、卒入学式や結婚式など、人生の節目に家族へのギフトとして選ばれることが多いです。
―― 最近では「KAHOU」に続き「テレチャウ」というサービスもローンチしました。こちらはどんな内容なのでしょうか?
加治木)「テレチャウ」は「もらうと照れちゃう」の意味で、インタビュー型のショートムービーギフトです。家族はもちろん、日頃からお世話になっている人などへの「ちょっと特別なギフト」としてお薦めしています。動画の長さは、1人での撮影であれば約1~2分、複数人の場合は約15分~。こちらも弊社スタッフが撮影と編集を行い、動画ファイルと限定URLをお渡ししています。
親や友達、先輩後輩など、いつもお世話になっている大切な人や、遠方の家族に自分の想いを言葉にして映像でメッセージを送りたいというときに、手軽に利用いただけるギフトです。
―― 実際に、「KAHOU」や「テレチャウ」を利用した人からはどんな感想が届いていますか?
加治木)「自分だけでは伝えられない気持ちを伝えることができて良かった」「家族とコミュニケーションが取りやすくなった」「親との仲が深まった」などの感想や、感動したという声が多いです。最初は「自分の気持ちを言葉にするのは恥ずかしい」と照れていた人も、実際に家族や友人にプレゼントすると、「本当にやってよかった」と言われます
―― サービスをローンチして、良かったこと、課題に感じていることを教えてください。
加治木)良かったと思うのは、当社のビジョンやサービスに賛同してくれる人が増えたことですね。家族、友人、大学の教授、他の起業家など、多くの人から応援いただいています。また、お客様からポジティブな声をいただけるのも励みになっています。
一方、難しいと感じるのは、若い人たちへのアピールです。特に多くの20代は「親孝行」といっても、ピンと来る人が少ない。若手の価値観を変えるのは特に難しいと感じますね。だからこそ、当社のサービスを認知してもらうだけで、若手の行動が変わるきっかけになるのではないかと考えています。ですから、今、SNSなどを利用して、親孝行に関する発信に力を入れています。
―― ちなみに、加治木さん自身はどんな親孝行をしていますか?
加治木)自分でも「テレチャウ」を利用して、母にメッセージを送ったところ、すごく喜んでくれました。他には、特別なことではないけれども、帰省したときは一緒にご飯を食べに行ったり、いろいろな話をしたりしています。私自身はファッションにあまり興味がないのですが、母は私の服を選ぶのが好きなので、一緒に買い物に行って服を選んでもらうこともあります。そのときの母がとても楽しそうで、「これも親孝行の一つになっているかな?」と感じます。
―― 自分は「まだ親孝行ができていない」と思っている人に向け、どんなことを伝えたいですか?
加治木)親子関係は人それぞれですし、親孝行は、必ずしなければならないものではなく、誰かに強制されるものでもありません。でも、伝えたいこと、聞いておきたいことがあるなら、親とコミュニケーションが取れるうちにしたほうがいい。親と別れるときが来る前に、後悔のないようにしてほしいです。
―― 今後の展望を教えてください。
加治木)私は親孝行を「文化」として醸成したいと考えています。日本では家族や親しい人に対して、日頃の感謝や好きだという気持ちを、言葉で伝えない人が多い。「黙っているのが美徳」「言わなくても分かるだろう」、そういった日本人特有の考え方が根付いているからだと思います。でも、私はそんな日本の価値観を少しでも変えていきたい。
そのためには、特に子どもへの教育が重要だと考えています。幼少期から周囲の人に「ありがとう」と伝える習慣を身に付ければ、お互いを思いやる心が育まれる。自然に「ありがとう」や、ポジティブな感情を人に伝えることができる人が増えれば、思いやりの良い循環が生まれると思うんです。そのために、今、保育園や幼稚園、学習塾などで、感謝を伝える重要性をテーマに、ワークショップなどを開催しています。今後は学校教育の場にも広げていきたいです。
「KAHOU」や「テレチャウ」のサービスも、引き続き、発展させていきたい。誕生日や人生の節目のイベントでの利用の他にも、仕事で長期間家族と離れている人や、企業の福利厚生としてより幅広く活用いただくことを目指します。また、「KAHOU」や「テレチャウ」が、さまざまな世代の人の親子関係を考えるきっかけになればいいなと思っています。
・テレチャウ(https://terechau.studio.site/)
・KAHOU (https://kahou.family/)