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その先の親孝行2024.09.09世界中のちょっと変わった供養の風習を紹介

現代の日本において、「供養」は故人を弔い、冥福を祈る慣習と考えられています。供養というと、しめやかに、静かに営まれるイメージがありますが、世界にはその国の文化や風習によってさまざまな供養があります。そして、葬儀と供養は、世界中どこでも行われているという共通項もあります。今回は、世界の多様な供養を紹介します。

メキシコ 「死者の日」 シンボルはカラフルな骸骨⁈

北米のメキシコには、毎年11月1日と2日に開催される「死者の日((Día de Muertos/ディア デ ムルトス)」という伝統的な風習があります。メキシコでは、この2日間は故人の魂が帰ってくる日と考えられており、亡くなった家族への愛と敬意を表すお祭りとして毎年開催されています。

「死者の日」は2003年、ユネスコ無形文化遺産に指定されました。

この日、各家庭では、墓参りや掃除をし、祭壇や供え物を用意して故人の魂を迎えるそう。メキシコでは「死者の日=故人の魂が返ってくる喜ぶべき日」と考えられているため、骸骨など死者の仮装をしてパーティーを行い、賑やかに過ごすのが習わし。骸骨には怖いイメージがありますが、メキシコでは故人と一緒に死者の日を祝う気持ちを表すため、カラフルでユニークな飾りつけや仮装をして楽しまれています。

「死者の日」には、個人宅だけでなく、街中にカラフルな祭壇(オフレンダ)が設置されます。オフレンダは、床に石灰岩で十字架が描かれ、砂糖やチョコレートで作られた骸骨、水、ろうそくなどが花と共に飾られます。「死者を導く花」とされるマリーゴールドをメインに、自然界を象徴する色の青、赤、黄、緑の布が装飾に用いられ、非常に華やか。公園には露店が立ち並び、演奏会やパレードが行われるなどお祭りムードに染まります。

さらに、この日に欠かせない供え物は「死者のパン(Pan de muerto/パン デ ムエルト)」と呼ばれる丸い形のパン。故人の魂が香りを頼りに戻って来られるよう、パン生地にはオレンジとアニス(香草の一種)が練り込まれています。現地では、この時期にしか食べられない死者のパンを楽しみにしている人が多いそう。

この「死者の日」の起源は古く、今から数千年前の古代アステカ文明の時代から始まったといわれています。当時からメキシコでは「人は亡くなっても、他人の心の中で生き続けているため悲しむ必要はない。ただ、死者の日だけは一時的に故人の魂が現世に帰ってくる」と信じられていました。この信仰が後にスペイン人からもたらされたカトリックの祝祭と融合し、形を変えながら現在まで続いています。

日本の「お盆」も「故人の魂が帰ってくる日」とされ、家族で集まって墓参りをしたり、地域によっては盆踊りが行われたりするなど、どこか「死者の日」と似ているところがありますね。「お盆」も「死者の日」も形は違えど、故人の好きな物を供えたり、思い出話をしたりして追悼する気持ちは同じ。故人への敬意と感謝を表すための大切な行事として受け継がれています。

インドネシアのトラジャ族 故人のミイラと寄り添って暮らす

インドネシアのスラウェシ島の一部には、家族の遺体と暮らす人々がいます。人が亡くなると日本では火葬、欧米では土葬が一般的な弔いであるのに対し、遺体と暮らすとは一体どんな風習なのでしょうか?

スラウェシ島の山岳地帯に住むトラジャ族の間では、死は悲しいことではなく、魂が天国へ向かうプロセスの一つだと考えられています。彼らの死生観は「死ぬために生きる」。そのため、「ランブソロ」と呼ばれる葬儀は、人生の最後を締めくくる最重要の儀式とされており、生涯年収を上回る額の費用をかけて盛大に行われます。家族、親族、近隣住民が集まり、大勢で故人の魂を送り出します。

ただ、ランブソロには莫大な費用がかかるため、家族が亡くなってもすぐに行うのが難しく、数カ月から数十年先になる場合も少なくありません。そこで、ランブソロの資金を貯めている間、故人をミイラにして、共に暮らすという独特の風習があります。

家族はミイラにした故人にも、毎日食事を与え、着替えをさせ、体を洗います。喫煙者だった故人にはタバコを吸わせ、子どもたちも「おじいちゃん遊ぼう」などと日常的に声を掛け、生存時と同じように過ごします。トラジャ族は、故人を大切にする思いが強く、遺体と暮らすことでゆっくり死を受け入れていくそうです。

トラジャ族は、ランブソロで故人を弔った後、遺体は風葬するのが一般的。数年に一度は墓からミイラを掘り起こし、体を清め、衣服を変え、共に時間を過ごす「マネネ」という風習も残っています。マネネには、故人と再び結びつき、残された家族の健康と繁栄を願う意味合いがあるそうです。

トラジャ族の弔いの方法は、驚くほど独特ですよね。日本で暮らしていると考えられない風習かもしれません。でも、彼らの「故人を生きているときと同じように大事にしたい」という想いには胸を打たれますね。ランブソロやマネネなど、こうした伝統が長く続いている背景には、故人への敬意と感謝、安心して天国へ旅立ってほしいという気持ちがあるからなのでしょう。

イギリス ハイゲイトセメタリー 弔いの歴史を伝える墓地

イギリスでは、一般家庭の葬式は、家族や故人の親しい人など少人数で行われます。訃報が入っても、よほど親しい人でない限り、遺族の家に駆け付けたり、お葬式に参列したりすることは少ないそうです。

その理由はイギリスにおける「弔い」の考え方にあります。イギリスでは古くから、死はプライベートなものであり、家族や親しい人だけで大事な人を亡くした悲しみを共有し、悼むものだと考えられてきました。そのため、お葬式では牧師を呼び賛美歌を歌い、遺族が故人への手紙を読むなどしてしめやかに送り出します。

イギリスでは、人が亡くなった後は遺体にエンバーミング(消毒・防腐処理)を施し、約1~2週間後に葬儀が行われます。かつては土葬が一般的でしたが、近年では遺体を埋葬する土地の不足と衛生管理の観点から火葬が増えています。火葬の場合、日本のような骨上げの習慣はなく、遺灰を埋葬したり散布したりして弔います。そこに樹木や花を植え、故人の思い出とともに大事にしていくそうです。自然を愛するイギリス人らしい弔いの方法ですね。

イギリスでは、古くから墓地の確保に課題がありました。かつてロンドン市内の墓地の多くは教会が所有する土地でした。しかし、次第に埋葬者で溢れてしまい、弔いきれない状態に。衛生面も悪化し、問題になっていました。

そんな中、19世紀に開設されたのが、ロンドンの郊外にある「ハイゲイトセメタリー(墓地)」です。

故人に対する畏敬を表すため、荘厳な趣のあるゴシック風の墓碑や納骨堂、建造物が建てられ、埋葬地として知られるようになりました。

ハイゲイトは原生林や野草が生い茂り、鳥やキツネなど野生動物が棲息する豊かな自然に囲まれた墓地。ドイツ出身の哲学者、カール・マルクスなど、著名人が多く埋葬されていることでも有名です。溢れる自然の中に独特な雰囲気があり、たびたび小説の舞台や映画のロケ地になっています。また、ハイゲイトには吸血鬼が住んでいるという噂があり、不思議な現象の発生や心霊体験をしたという人も……。

現在は観光スポットとしても人気があるハイゲイトセメタリーは、ウエストとイーストの区画に分かれており、ウエストはツアーのみ、イーストは入場料を支払えば自由に散策できます。イギリスの曇り空と、さまざまな形の墓碑やゴシック風の建物は、荘厳でもあり、不気味な雰囲気を醸し出しています。とはいえ、ハイゲイトも故人に敬意を払い、弔うために開設された墓地。

現在のイギリスでは火葬が多くなりましたが、弔いの歴史を今に伝える大切な場所として大切に保護、維持されています。

ガーナのお葬式 棺桶ダンスや個性的な棺桶で故人を送り出す

日本やイギリスをはじめ、多くの国ではお葬式はしめやかに行われるもの。文化や風習の違いはありますが、黒や灰色の服を纏い、故人を偲びながら送り出すなど多くの共通点があります。

そんな静かなイメージのあるお葬式を、お祭りのように明るく賑やかに執り行うのが、アフリカの西部に位置するガーナ共和国。ガーナには、ダンス葬の風習があり、参列者はアフリカンプリントと呼ばれる赤、青、オレンジなど鮮やかな色柄の衣服を身に付け、笑顔と歓喜の声を上げ、葬儀を行います。喪服は黒と赤が一般的とされています。

会場には太鼓やラッパなどを用いて明るくリズミカルな音楽が流れ、棺桶を担ぎながらのダンスパフォーマンス(コフィンダンス)が行われます。プロのダンサーが呼ばれ、スタイリッシュな服装でダンスが披露されることも。日本では「コフィンダンス=棺桶ダンス」と呼ばれており、動画サイトなどでその様子を見ることができます。

また、ガーナの棺桶は、それぞれ個性的でユニーク。例えば、飲料ボトル、動物や飛行機、ギター、スニーカーなど故人の職業や趣味、好きな物にちなんで、専門の工房で一つひとつ手作りされます。その完成度と芸術性の高さは国外からも評価されています。

ガーナでは、人が亡くなると、遺体をしばらく専用の冷凍庫に保管するそう。亡くなってすぐに葬儀を行わないのは、できるだけ大勢の人に参列してもらうため、葬儀を数カ月後の土日に設定するのが習わしだからです。遺族は、その間にお葬式の詳細を告知するポスター、故人の生前の様子を伝える小冊子など、さまざまな準備を行います。

お葬式当日は、埋葬の時間まで集まった人々で飲食し、ダンスや歌を楽しむのがガーナ流。その背景には、「死=新たな人生のスタート」と考える死生観があります。お葬式は、故人の新しい人生の始まりを祝う儀式とされているため、明るく賑やかに行うのです。

日本では、人が亡くなったとき、よく「あの世へ行く」と表現しますよね。また、例えば、「亡くなったおばあちゃんがあの世から見守ってくれているよ」と言われることもあるように、故人は別世界で生きていると信じられています。

これは、日本にも現世での人生を終えた魂は、別の世界(あの世)で生きているという死生観があるからです。「死=魂の終わり」と捉えず、故人の魂は別世界で生きているという考え方は、ガーナの死生観と似ているところがありますよね。

ちなみに、ガーナのお葬式は誰でも見学が可能です。ただ、安全面を考慮すると、ツアーを利用するか、現地のガイドなど信頼のおける人と見学したほうが良いでしょう。

まとめ

世界にはさまざまなお葬式と供養の方法があります。文化や風習、死生観は異なりますが、「死」を人生の一つの区切りとして大切に考えているのは、どこの国でも同じです。遺族にとって、大切な人との別れは悲しいものですが、家族、親類縁者を中心に皆で送り出したいという気持ちは共通。葬儀や供養は遺族が悲しみを受け入れ、再び前を向くための儀式でもあります。しかし、誰かが亡くなったとき、一番大事なのは故人への感謝と悼む気持ちです。ですから、一般的な葬儀や供養の形式にとらわれ過ぎず、弔いの方法は人それぞれでもいいはず。自分なりに故人に感謝し、供養の気持ちを伝えていきましょう。

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