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今できる親孝行2026.05.11世界の父の日から「感謝の伝え方」を見つける

忙しい日常の中で「親孝行しなきゃ」と思いながらも、きっかけがつかめないまま時間が過ぎていく。父の日にネクタイやお酒を贈るのも悪くはないけれど、「本当はもう少しできるのでは」と、心のどこかで感じている。毎年6月が来るたびに、そんな思いを繰り返していらっしゃる方は、少なくはないでしょう。

では、ネクタイやお酒以外に、どんな形があるのか。実は世界を見渡すと、父の日の祝い方は国や地域によって驚くほど異なります。アメリカでは家族でバーベキューを囲みますし、メキシコでは家族で特別な食事を楽しむほか、父と子が一緒に走るマラソン大会が毎年開催されております。タイでは子どもが父親にひざまずき、感謝の言葉とともにカンナの花を手渡す習慣があります。イタリアでは家族で伝統菓子のゼッポレを囲みますし、ドイツでは父親たちが仲間と自然の中に繰り出す日として定着しております。日付も6月の国もあれば3月や12月の国もあり、台湾では8月8日、「パパ(爸爸)」の発音にちなんだ語呂合わせで祝われております。

形はまったく違いますが、どの国にも共通しているのは「父親への感謝を、何らかの形で伝えよう」というシンプルな気持ちです。そして、その伝え方の多様さの中に、私たち自身の親孝行に取り入れられるヒントがたくさん含まれているように思います。どんな形なら自分のお父様に喜んでもらえるだろうか。世界の事例を参考にしながら、今年はどんなふうに感謝を届けるか、一緒に考えてみましょう。

「一緒にいる時間」を贈る

アメリカでは家族でバーベキューを囲み、メキシコでは父の日に合わせて親子マラソン大会が開催されます。メキシコシティの「Carrera Día del Padre 21K」は40年以上の歴史を持つ大会で、「父と息子」「父と娘」といった親子カテゴリーが設けられ、毎年数千人以上が参加するそうです。どちらの国にも共通しているのは、「一緒に過ごすこと」そのものを贈り物にするという考え方です。

家族との時間を何より大切にしてこられたお父様には、この発想がぴったりではないでしょうか。久しぶりに一緒に食事に行ったり、普段は行かない少し特別な店を予約したりと、それだけで十分な贈り物になるかと思います。昔よく家族で行っていた場所を再訪してみるのもよいかもしれません。懐かしい場所が、自然と会話を引き出してくれることもあります。何を食べるか、どこに行くかよりも、「今日は一緒にいよう」という気持ちが伝わることのほうが大切なのではないでしょうか。

遠方に住んでいて直接会えない場合でも、工夫次第で「一緒に過ごす時間」はつくれます。たとえばビデオ通話をつないで同じ料理を食べたり、画面越しに昔のアルバムを開き思い出話をしたり。画面越しであっても、同じ時間を共有しているという感覚は十分に伝わるかと思います。「ちょっと顔を見せるだけ」で終わらせず、一緒に何かを楽しむ時間を仕掛けてみると、思いのほか盛り上がるかもしれません。

もちろん、父の日当日に限る必要はありません。父の日をきっかけに「来月一緒に出かけよう」と約束するのも一つの形かと思いますし、当日までに少しずつ企画を練っていく過程そのものが、お父様のことを考える時間になるかと思います。日常の延長線上にある「少しだけ特別な時間」のほうが、意外と喜ばれるかもしれません。

「言葉」で気持ちを届ける

タイでは父の日に、子どもが父親にひざまずいて感謝の言葉を伝え、カンナの花を手渡す習慣があります。品物ではなく、気持ちそのものを形にして届けるという考え方です。贈り物の金額では測れない、言葉だからこその力があると感じさせられます。

普段あまり会話がなかったり、少し距離を感じていたりすると、面と向かって「ありがとう」と伝えるのはなかなか気恥ずかしいものです。そんなときこそ、世界の事例をきっかけに使ってみてはいかがでしょうか。「タイではこういうふうに感謝を伝えるらしいよ」と話題にしながら、モノマネで自分もやってみる。海外の習慣を「ネタ」にすることで照れくささが和らぎますし、お父様のほうも構えずに受け取れるかもしれません。思いがけない会話が生まれて、意外な展開につながるかもしれません。

きっかけのつくり方が見えてきたら、届け方にも少し工夫を加えてみてはいかがでしょうか。たとえば短いビデオレターを撮って送るのも、特別感のある伝え方です。スマートフォンがあればすぐに作れますし、動く表情や声のトーンは、文字だけでは伝わらない温かさを届けてくれます。お子さんやお孫さんと一緒に撮れば、それ自体がかけがえのない記録にもなります。

もちろん、伝え方に決まりはありません。ビデオレターでも、手紙でも、LINEのひとことでも、普段は口にしない言葉だからこそ届くものがあるかと思います。大切なのは完璧な言葉を見つけることではなく、気持ちを何らかの形にして届けるということですので、ご自身に合ったやり方を選んでみてください。

「自分の時間」を贈る

ドイツでは、父の日は「Männertag(男性の日)」とも呼ばれ、男性たちが自然の中で仲間との時間を楽しむ日として定着しております。「何かしてもらう」のではなく、「自分自身の時間を堂々と楽しめる」という発想が根づいているようです。

この考え方は、忙しく働いてこられたお父様、今も忙しいお父様に特に合うのではないでしょうか。趣味の道具や好きな店の食事券、以前から気になっていたという体験型のギフトなど、お父様ご自身が「自分のために使える」ものを贈るという形です。普段は仕事や家族のために使っている時間を、この日だけは自分のために使ってもらう。それ自体が「お疲れさま」のメッセージになるのではないでしょうか。

お父様が以前から「やりたい」とおっしゃっていたことがあれば、それを代わりに手配してあげるのもよいかもしれません。もし「やりたいこと」がわからなければ、聞いてみること自体が会話のきっかけになります。案外、お父様ご自身も何をしたいのか、あらためて考える機会がなかったのかもしれません。父の日をきっかけに、たとえば翌月にその体験を実現するという流れでも構わないかと思います。お父様の希望に耳を傾けるという行為そのものが、実は親孝行の入り口になるように思います。

お父様に合った一歩を、今年の父の日から

3つのスタイルをご紹介いたしましたが、もちろん一つに決める必要はありません。「一緒に食事をしながら、ビデオレターを見せる」のように組み合わせてもよいですし、「今年は言葉を届けて、来年は一緒に出かける」と、年ごとに違った形を試してみるのも一つのやり方です。迷ったら、お父様ご本人に「何がうれしい?」と直接聞いてみるのもよろしいかと思います。シンプルな問いかけですが、意外と踏み出せていない一歩ではないでしょうか。聞くこと自体が関心の表れですし、返ってきた答えが、来年以降の親孝行のヒントにもなります。

父の日は年に一度ですが、親孝行に「正解の日」があるわけではありません。父の日の前から少しずつ準備を楽しむもよし、父の日をきっかけにその先の体験を企画するもよし。大切なのは、お父様のことを想う気持ちを何らかの形にすることなのかもしれません。

この記事が気になって読んでくださっている、それだけで、最初の一歩は踏み出せているかと思います。どんな贈り物にも負けない、とても大切な一歩です。今年の父の日が完璧でなくても構いません。小さな一歩を踏み出してみて、来年は「今度はこうしてみよう」と、もう少し工夫してみる。そうやって毎年少しずつ試していくうちに、きっと親孝行そのものが楽しくなってくるのではないでしょうか。お父様と一緒に、父の日を楽しめるようになる。今年の父の日が、その最初のきっかけになりましたら幸いです。

取材/文 戸田敏治

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