紅葉シーズンも近づき、旅行に最適な季節がやってきます。
昔は旅行が好きだったお父様やお母様が年を取り、足腰が弱り「迷惑をかけるのでは?」とか「階段や坂が辛いし、車いすでは旅館に泊まれない」といった理由で旅から遠ざかっていませんか?
また、ご本人は「行きたい」と言っているのに「旅行先は受け入れてくれるだろうか」「どうやって介助すればいいだろうか」と子どもの方が二の足を踏んでしまうこともあるのでは?本当は大好きなのに、身体の都合で旅をあきらめていたらもったいないですね。
今回は、高齢のご両親の旅行で考えられるいくつかの注意点も押さえながら、ご両親へのプレゼントやご一緒の旅行に適したバリアフリー旅館・ホテルをピックアップしてみました。楽しい旅の予定をたててみましょう。初回は関東・甲信越編です。
たとえ身体に不自由があっても楽しい旅にするために、ポイントを押さえておきましょう。
(1)どこに行きたいかを最優先。
お父様、お母様の気持ちを最優先して行先を決め、その上で見合った宿があるかどうかを探しましょう。優先順位のたて方は普通の旅と同じと言えますね。
(2)事前のやり取りは入念に。
宿泊したい宿とは入念にやり取りをしましょう。客室の設備だけではなく部屋から食堂、風呂など館内の動線もこちらの状態に合わせて聞き取りをすすめていきましょう。
情報を得るだけではなく、こちらの情報もなるべく細かく相手に伝えておくことも良いサービスを受け取るためには必要です。情報交換が十分であれば、期待するサービスがない部分について事前に準備でき、トラブルを防ぐこともできます。
▲館内のスロープの例 (富士レークホテル)
(3)予算は多めに。スケジュールはゆったりと。
環境が変わると対応がむずかしい高齢者のこと。急なケガや病気など不慮の事態に備えて、予算とスケジュールは余裕をもっておきたいところです。また近くに総合病院などがあるかどうかもチェックしておきましょう。
(4)乗車券、観光施設の割引もチェック!
障がい者手帳を持っている場合は乗車券や観光施設での割引があります。対象によっては介護者にも割引が適用されますので、確認をしておきましょう。
平成以降のバリアフリー政策の推移に伴い、駅、船、空港などでのバリアフリー化がぐっと進んでいます。電車での乗り降りで駅係員が介助をしている風景は、最近では当たり前になってきましたね。マイカーだけではなく公共交通機関も思い切って使ってみてはいかがでしょうか。現地では、旅のプランによっては貸し切りタクシーの有無も検討しておくとよいかと思います。
それでは、おすすめの宿をご紹介いたします。
諏訪湖周辺は、湖一周観光やのんびり足湯を楽しめる公園や美術館があったり、歴史のある神社巡りなどもできたり、自然と味覚に恵まれた観光地です。あまり無理をせず平坦な道で自然や芸術を楽しむことができるので幅広い年齢層に人気のスポットと言えましょう。
「上諏訪温泉 しんゆ」は、諏訪湖遊覧船乗り場から徒歩3分のところにある好立地の宿であるだけでなく、館内や一部の客室にユニバーサルデザインを積極的に導入しています。
障がい者や高齢者など特定の不具合を抱える人の障壁(バリア)をなくすバリアフリーに対してユニバーサルデザインは、あらかじめ障害の有無、年齢、性別、人種などにかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインするという考え方です。
ユニバーサルデザインであるということは、小さなお子様にも優しい施設ともいえますから、3世代4世代の旅行先としてもおすすめできますね。
客室にはユニバーサルデザインのバスルームがありますが、他にも滑りにくい畳敷きの大浴場や、車椅子のまま入れるバリアフリー貸切温泉風呂があり、車椅子利用の方でも楽しめます。スイッチの多言語表示(点字・英語)、聴覚障害者用の呼び鈴や非常ベルも常備されており、あらゆる障害に対応するという心意気を感じます。
▲バリアフリー客室
もちろんハード面だけではありません。「※旅のユニバーサルデザインアドバイザー」資格取得をしたスタッフがさまざまなサポートをしてくれることもとても心強いポイントです。
また賀寿のお祝いに合わせ「親孝行プラン」を使った3世代・4世代での予約も多く「温泉旅行に行こう!とだけ言われてきたら宿に親戚がみんないてビックリ!」ということも多いとか。3日前までに予約すればケーキや花束の用意もあり、夕食時やお部屋でのサプライズに大喜びされる方も多いそうです。食事の最後に取ってくれた写真は、オリジナルフォトフレームとともにプレゼントされるとのことで、うれしい宝物になりますね。
また、親戚一同や母娘はもちろん、最近は母と息子の組み合わせも多いとか。普段は面と向かって言えない感謝の気持ちも、旅行先でのサプライズに合わせて言えるいい機会になるのかもしれませんね。
▲親孝行プランでパチリ
【宿名】上諏訪温泉 しんゆ
【電話】0266-54-2020
【HP】https://www.kamisuwa-shinyu.com/
【住所】長野県諏訪市湖岸通り2-6-30
【チェックイン/チェックアウト】チェックイン15:00 チェックアウト10:00
【アクセス】上諏訪駅から徒歩10分 無料送迎バスあり
【泉質】弱アルカリ性単純温泉
<施設>
【バリアフリー客室】「美湖の雫」3タイプ(最上階スイート・スイート・セミスイート)/8室
電動ベッド。加湿機能付き空気清浄機。シャワーブース。洗浄機付きトイレ。
扉は引き戸。フルフラットで段差なし。
<レンタル>
車椅子、介助椅子、たちあっぷ(ふとんやベッドから立ち上がるのが困難な時に使用)、バスタイムカバー(入浴時に手術跡が気になるときに使用)その他要相談。
<食事>
諏訪で信州人が長年食してきた発酵食品、野菜、キノコをふんだんに使った健康食をベースに、料理長が創作した和会席「美湖膳」。二十四節気に合わせて食材や調理法にも工夫をこらしている。小麦を除いた6大アレルギーのみ料理の変更可能。
<風呂>
温泉の成分に合わせ、防菌防カビの特殊素材の畳を使用した大浴場は総タイル張りのアールデコスタイル。 畳の床は足元が柔らかく、滑りにくい。貸切半露天風呂あり。
▲車椅子のまま入れるバリアフリー貸切温泉風呂
<親孝行プラン>
記念写真撮影とオリジナルフォトフレームプレゼント、諏訪大社無料参拝バス、朝夕個室料亭で個室食などのサービスあり。賀寿の祝いの場合は賀寿に合わせたちゃんちゃんこの用意。夕食時にデザートプレート。
<最寄りの総合病院>
諏訪赤十字病院
※旅のユニバーサルデザインアドバイザー:一般社団法人 ケアフィット推進機構が認定する民間資格。
https://www.carefit.jp/ud_adviser
▲車坐コンサート
「玉之湯」が館内のバリアフリーに大きく舵を切ったのは、女将のお母さまが骨折したことがきっかけでした。車椅子の生活を余儀なくされたお母様でしたが、当時はバリアフリーを完備している場所も少なく、楽しみを制限せざるを得なかったといいます。そして『玉之湯』もまた、当時はバリアフリー完備とは言えない状況でした。
「人とのふれあいも含めて、旅は心を元気にするもの」。そう考えている女将は、身体を理由に旅をあきらめてほしくないという思いで館内のバリアフリーを目指しました。設計段階から車椅子利用者の意見を取り入れており、車椅子からベッドへの移動や浴場のリフト設置など、介助する人とされる人の使いやすさを考え抜かれている旅館です。
古希、還暦のお祝いに3世代・4世代で利用される方、年に3~4回訪れて四季おりおりの風情を楽しまれる方や毎年1週間ほどの長逗留でゆっくり過ごされる親子も多いとのことです。そんなお客様のお目当ての一つが名物の「車坐コンサート」。毎日のように演奏家を変えて生演奏のコンサートを開催しているので、1週間滞在していても飽きないとか。次第にお気に入りの演奏家の方ができ、リクエストをすることもあるそう。和気あいあいとしたアットホームな雰囲気を楽しめるのも「玉之湯」の魅力の一つですね。信州の大自然や芸術、歴史を楽しみつつ、ゆったりとくつろげる宿です。
【宿名】玉之湯
【電話】0263-46-0573
【HP】https://www.asama-tamanoyu.co.jp/
【住所】長野県松本市浅間温泉1-28-16
【チェックイン/チェックアウト】チェックイン15:00 チェックアウト10:00
【アクセス】JR松本駅からバス20分
【泉質】アルカリ性単純温泉
<施設>
【バリアフリー客室】6タイプ11部屋 扉は引き戸。フルフラットで段差なし。
<バリアフリーモダン和風ツイン310>
和室9畳+小上がり6畳
電動ベッド1台、セミダブルベッド1台、 バリアフリー対応シャワールーム、洗浄機付トイレ、加湿機能付空気清浄機
▲バリアフリーモダン和風ツイン310
<バリアフリーモダン和洋室>
和室10畳+トリプルベッドルーム。
セミダブルベッド2台、ソファベッド1台、バリアフリー対応シャワールーム、洗浄機付トイレ、 加湿機能付空気清浄機
<食事>
信州の山菜やきのこ、季節野菜、信州牛、岩魚といった恵まれた素材を生かした味を半個室で。手打ちにこだわった手切りそばも大人気。介護食の持ち込み可。旅館で出す素材を刻むなどの対応は可能。
<風呂>
3つの貸切露天風呂のうちの南天の湯と、貸切個室風呂のはるの湯はバリアフリー対応。南天の湯は風呂場まではスロープになっているので湯舟まで車椅子で行くことができ、松本平と高ボッチ高原を一望できる。
▲南天の湯
<レンタル>
館内用車椅子、杖、たちあっぷ(ふとんやベッドから立ち上がるのが困難な時に使用)その他要相談。
<最寄りの総合病院>
社会医療法人財団慈泉会 相澤病院
館内の至るところから富士山や河口湖を観ることができる富士レークホテルでは、ユニバーサルデザインをコンセプトにした客室、バリアフリールームの種類や数が多く充実しています。富士山眺望の部屋からは富士山の大きさ、存在感、エネルギーの強さに元気づけられる人は多いのではないでしょうか。
レークビュー貸切風呂は入浴用リフトを完備したバリアフリーのお風呂です。年配や車椅子で温泉での入浴をあきらめていた方にこのホテルが選ばれることも少なくありません。「リフト付き貸切風呂の存在が大変ありがたかった」という声も多く聞かれているそうです。
▲レークビュー貸切風呂
開放感のあるワーケーションラウンジではリモートワークも可能なので、仕事を抱えつつの親孝行旅行も可能です。
▲ワーケーションラウンジ
【宿名】富士レークホテル
【電話】0120-72-2209
【HP】https://www.fujilake.co.jp/
【住所】山梨県南都留郡富士河口湖町船津 1 番地
【チェックイン/チェックアウト】西館客室チェックイン15:00/チェックアウト10:00 東館客室のチェックイン14:00/チェックアウト11:00
【アクセス】河口湖駅より徒歩12分。無料送迎バスサービスあり
【泉質】NaCa硫酸塩泉
<施設>
【バリアフリー客室】
▲バリアフリールーム客室部分
ユニバーサルデザイン6種20室+バリアフリールーム1種3室。扉は引き戸。フルフラットで段差なし。
バリアフリールームには、浴室内に座ったままでシャワーを浴びることができる「座・シャワー」あり。42㎡の広々とした部屋は定員4名。河口湖温泉の引き湯のお風呂とトイレは手すりつき。リクライニングベッド2台。頭、足、高さの3つの高さが調節可になっており、様々な障害に対応が可能。
<食事>
ディナービュッフェ、フランス料理レストランPREMIER、和食ダイニング赤富士、部屋食から選択可。朝食はビュッフェ。
本場フランスの伝統パンの店「パン・ダニエル」は、本館直営の店で、道路を挟んで本館の目の前。
レストランへは介護食の持ち込み可。ビュッフェレストラン・および部屋食についてはオプション1食税込1100円にて、展開食(一口大・きざみ食・ミキサー食)可能。
フランス料理レストランPREMIERは一口大のみ対応可能、和食ダイニングレストラン赤富士は対応不可。
<風呂>
レークビュー貸切風呂に入浴介助用のリフトあり。入浴介助業者のヘルパー手配可能。
<レンタル>
館内用の車椅子、移動式手すり(たちあっぷ)、シャワーチェア、その他要相談。
<最寄りの総合病院>
山梨赤十字病院
■まとめ
「旅行なんて無理なのでは」とあきらめている高齢者の方が多いのも無理はありません。しかし、2000年の『交通バリアフリー法』の施行(高齢者、障がい者などの移動などの円滑化の促進に関する法律)から20年以上たち、社会のバリアフリー化は大きく進みました。移動や宿泊に関して様々なサポート体制があることは驚くほど。
車椅子であっても、電車、飛行機、船、あらゆる交通機関や宿で、差し伸べられる「手」は多いのです。「心のバリアフリー」という言葉があるように、障がいのある人に手を差し伸べる精神は、以前よりずっと醸成されているように感じます。宿泊先でも様々なサービスを受けることができます。「あきらめていたことが叶う」「できなかったことができる」それは、高齢者にとっても明日への活力となり、希望の灯となるのではないでしょうか。
準備からが楽しい旅の始まりです。お父様やお母様と一緒に旅行に行って何をどう楽しみたいのか考えて、語り合い、宿泊先を決めることも含めて大いに楽しんでみてはいかがでしょう。
たくさんの人との触れ合いによって実現した楽しい旅は、かけがえのない思い出の1ページとして、お父様やお母様の心に刻まれることでしょう。
取材・文 宗像陽子