お墓参りに行かれたとき、墓石に刻まれた言葉に目を留めたことはありませんか。一昔前は家名や「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」などの題目を刻むことが一般的でしたが、近年は「ありがとう」や「感謝」といった葉や、故人への想いを込めた様々な文字を目にする機会が増えてきました。これは時代の流れとともに、お墓に対する想いや表現の仕方が豊かになってきたからなのかもしれません。
そこで今回は、本サイト「孝行好日」を運営する石材店、株式会社加登のスタッフにアンケート調査を行いました。建立数の多い現場から最新のトレンドが見える現場まで、異なる特徴を持つ複数の現場からの声をもとに、お客様から依頼の多い「お墓に刻む言葉」をランキング形式でご紹介したいと思います。
【1位 ありがとう・感謝】
温かい感謝の気持ちを込めたありがとう・感謝が堂々の1位。ひらがなの「ありがとう」から漢字の「有難う」まで、表記は様々ですが、故人への感謝、家族への感謝、そして人生への感謝―様々な「ありがとう」の想いが込められています。シンプルでありながら、最も伝えたい気持ちを表現できる言葉として、圧倒的な支持を集めています。
【2位 絆】
家族の繋がりや人との結びつきを表す「絆」が同率2位にランクイン。東日本大震災後に特に人気が高まった言葉として、多くの石材店で選ばれているとの声がありました。大切な人との永遠に続く結びつきを表現したいという、現代の家族観を象徴する言葉といえるでしょう。
【3位 和】
心穏やかに、平和に過ごしてほしいという願いを込めた「和」が3位にランクイン。一文字に込められた深い想いが、多くの方に選ばれています。日本人が古くから大切にしてきた調和の心を表現する、美しい言葉です。
愛、やすらかに、想い、心、慈など、故人を想う気持ちや残された家族への想いを表現する温かい言葉が多く選ばれています。
アンケートでは、印象深いエピソードもたくさん教えていただきました。その中から、特に心に残る2つのお話をご紹介します。一つ目は、故人様が営業していた風呂屋(すでに閉業)の名前を、ご遺族の想いでお墓に刻んだケース。きっと故人様にとって、その風呂屋は人生をかけて築き上げた大切な場所だったのでしょう。お客様に愛され、地域の皆さんに親しまれた風呂屋の名前をお墓に刻むことで、故人の誇りや人生への想いを永遠に残したいというご家族の愛情が感じられるエピソードです。
二つ目は、「生きる」と彫られた方のお話。亡くなった方を納める場所でありながら、故人からお参りされる方へのメッセージとして刻みたいという希望があったそうです。お墓が単なる眠りの場所ではなく、生きている人と故人とをつなぐ大切な対話の場所であることを改めて感じさせてくれるエピソードです。
この傾向はいつ頃から始まったのでしょうか。石材店の皆さんにお聞きしたところ、主に以下のような背景があるようです。
■洋碑タイプの台頭
約20年前から洋風の石碑が増え始めたタイミングで、言葉を刻むスタイルも一般的になってきたようです。洋風のお墓は従来の和型のお墓とは異なり、自由な文言を彫刻しても違和感がないため、様々な言葉を刻むことが可能になったと考えられます。一方で、和型のお墓では現在でも宗派のお題目をご要望されるお客様も多くおられ、伝統的な表現も大切に受け継がれています。
■震災後の意識の変化
東日本大震災以降、人と人とのつながりや家族の絆を改めて見つめ直す機会が増えたようです。未曾有の災害を経験した私たちは、改めて「人とのつながり」や「家族の大切さ」を深く実感したのかもしれません。特に「絆」という言葉は震災後に人気が高まり、多くの方に選ばれるようになったとのことです。お墓に「絆」と刻むことで、たとえ離れ離れになっても決して切れることのない家族の結びつきを表現したいという想いが込められているようです。
■個人の想いを大切にする時代
現代では、お墓を単なる家の象徴としてだけでなく、個人の想いや価値観を表現する場として捉える方が増えているようです。故人の人柄や生き方、家族との思い出を言葉で表現することで、より身近で親しみやすいお墓にしたいという想いから、家名と併せて、あるいは家名の代わりに心に響く言葉を選ぶ傾向が強くなっているようです。
お墓に刻む言葉の多様化は、故人への想いや家族の絆を表現する新しい形として定着してきました。家名や宗教に由来する伝統的な彫刻も素晴らしい文化として受け継がれていく一方で、それぞれのご家族らしい想いを込めた言葉を選択することで、お墓がより身近で温かい存在になっているのではないでしょうか。
お盆を前に、もしお墓のことを考える機会がありましたら、どのような言葉でご家族の想いを表現したいか、ゆっくりと考えてみてはいかがでしょうか。その言葉は、きっと大切な故人との新しい対話のきっかけになることでしょう。どのような言葉を選ばれても、そこに込められた想いこそが最も大切なもの。それは時代を超えて、いつまでも変わることのない、親孝行の心なのだと思います。
文章:戸田敏治