Special interview

孝行好日 KOUKOU KOJITSU

女優田中律子

SPECIAL interview 02「感謝の気持ち」でつながる、
親と娘の素敵な関係。

飾らない人柄と明るい笑顔で、モデルや歌手、女優業、司会業などマルチな活躍をつづけてきた田中律子さん。近年では、サンゴの保全活動のために沖縄に移住。その家には、癌の療養中だったお父様も暮らされていました。そんな最愛のお父様が、2022年に他界した今、田中さんが考える親子の良い関係を築く秘訣と、親孝行のあり方、そしてそれぞれに合った供養の形について語っていただきました。

恋愛のことまで、
なんでも話し合える親子の関係。

10代の頃から芸能界で活躍されていますが、ご両親とはどのような関係でしたか。

両親は二人とも実家の美容室で働いていたんですけど、性格は正反対で。母は家庭的な人で、私を含めた兄弟3人の面倒を見ながら、仕事を頑張っていました。父は、一言で言えばファンキーな人。金髪でハーレーを乗り回すような自由人。そんなキャラクターの違う両親ですが、どちらともずっと仲は良いですね。反抗期とかはなかったんじゃないかな。一人暮らしをしてからも実家の近くに住んでいたので、両親とはよく会って、何でも話していました。仕事のこと、友達のことから、それこそ恋愛のことまで。大人になってからは、父と一緒に飲みにいったり。唯一話さなかったのは、仕事の悩みですね。心配をかけたくなかったので。

沖縄での素敵な人間関係は、
父からの贈り物。

現在は沖縄に住まわれている田中さんですが、療養中のお父様もその家に暮らされていたそうですね。

私が沖縄に家を購入して。でも、すぐには住めなかったので、癌を患っていた父に住んでもらったんです。やっぱり、自然が豊かな場所の方が身体にも良いかなと。それに、ファンキーな人だったので海も大好きで。父は5年間、沖縄で暮らしていたんですけど、もともと明るい人なので友達もいっぱいできて、みんなを自宅に招いてパーティーをしたり、家の前のテラスで友人の髪を切ってあげたり、そこでの暮らしを満喫していましたね。沖縄での生活をプレゼントしてあげられたことは、父に対しての最大の親孝行だったなと思う反面、今、私が地元の人たちと良い関係を築けているのは、父からの贈り物だなとも感じています。移住で一番苦労するのは地元の人との関係と言われますけど、父がみんなと仲良くなってくれていたから、私もすんなりと受け入れてもらえた。そんな感覚がありますね。

最後のお別れも、その先も、
父が一番愛した場所で。

そんなお父様が、2022年にお亡くなりになりました。

父が暮らした我が家の前で、地元の友人を招いてお別れ会をしました。父の性格を考えると、湿っぽいお別れは嫌だろうということで、みんなにはアロハシャツとか沖縄のかりゆしウェアで集まってもらって。父の遺影の周りに、お庭からつんだハイビスカスとかプルメリアの花や、みんなからもらったマンゴーやパイナップルで飾って、パーティーという形で明るく送り出しました。

お墓は沖縄に建てられたのでしょうか。

いえ、お墓は先祖代々のものがあるので。でも、何となく父の魂は沖縄にいる感じはありますね。遺影も、きっと黒色の縁は嫌がるだろうなと思って、ビーチガラスとか貝殻とかで明るく飾って沖縄の家に置いてあります。地元の人たちも、うちの前のビーチに来ると父のことを思い出すみたいで、「お父さん、元気にしてるかな」なんて声を掛けてくれますね。沖縄の人は、その土地にご先祖さまがずっといるという感覚が強いみたいです。海がいちばん綺麗に見える高台に大きなお墓があったりして、豊かな自然の中で、土地の記憶と、人の記憶が、密接に結びついているのを感じます。

残された母との時間を大切に。

お母様はご健在ということですが、親孝行などはされていますか。

母は19歳で父の実家に嫁いできてからずっと、父や祖母と暮らしてきて。でも、昨年父が他界して、そのショックがあったのか、すごく元気だった祖母も、その4ヶ月後に亡くなっちゃったんですね。それで、72歳にして本当に久しぶりの一人暮らしが始まって。だから、これからはその自由な時間をできるだけ楽しんでもらいたいと思って、一緒に旅行に出かけたり、ご飯を食べに行ったり、色々な場所に連れて行ってあげるようにしています。実は昨日も、私の娘と一緒に3人でお祭りに行ってきました。私が仕事で東京に来ることも多いので、その時は必ず会うようにしていますね。来年には、母も沖縄に移住してくる予定なので、一緒に過ごせる時間をもっと増やせそうです。すでに母も沖縄の人たちとは顔馴染みになっているので、新しい生活にもすんなり馴染めるんじゃないかな。それも、母のために父が用意してくれた贈り物なのかなと思いますね。

両親への感謝こそ、
良い関係を築く秘訣。

お父様とも、お母様とも、ずっと良い関係を築けている田中さんですが、何か秘訣はあるのでしょうか。

秘訣と言われると難しいのですが、感謝の気持ちを持ちつづけるというのは大切なのかなと思います。「自分の親だから」って、甘えちゃうところもあると思うんですけど、何かをしてもらうことを当たり前だと思ってはいけないな、と。社会に出て、他の人に何かをしてもらった時に「ありがとう」と伝えるのと同じで、それは自分の両親であっても、きちんと言葉や行動で伝えるようにしていますね。実家が美容院だったので、母にも、祖母にも、お客さんにきちんと挨拶するように、何かしてもらったら「ありがとう」と言うように、小さい頃から厳しく言われてきたのが良かったのかなと思います。だから、それは自分の娘にも、しっかりと伝えるようにしています。その甲斐あってか、娘は今25歳なんですけど、月に一度、私にご飯を奢ってくれるというルールを彼女が自発的につくってくれて、「ママ、今月は何食べたい」なんて聞いてきてくれることが我が家の習慣になっています(笑)。

娘様も大人になられて、親の視点から、こんなことをしてほしいという親孝行の希望はありますか。

親としては、とにかく安心させてほしい。もう、本当にそれだけですね。結婚でも、何でもいいんだけど、幸せになってくれたら、それが一番。なんだかんだ言っても、世の中の多くの親が本当に望んでいるのは、そういうことじゃないでしょうか。

田中律子さん
1971年生まれ。東京都出身。有限会社アール所属。12歳の頃にスカウトされたことをきっかけにモデルとしてデビュー。その後、大ヒットドラマ『101回目のプロポーズ』など数々の作品で女優として活躍するとともに、バラエティー番組にも多く出演。現在は東京と沖縄の二拠点生活。NPO法人アクアプラネット理事長の他、日本サップヨガ協会理事長を努めるなど、よりマルチに活躍中。